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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第32話 フィオラ

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(一)消えない風

◆ 消えない風


 窓から入った風は、すぐには消えなかった。

 机へ戻った報告書の端を一度だけ持ち上げ、開いた窓の方へ向けて揃える。

 次に、ミレナの髪を揺らした。

 栗色の髪が頬へかかる。

 ミレナが手で押さえると、風はその指の間を抜け、セトたちの周囲を一度回った。


「呼んでいるのか」


 セトが窓の外を見る。


「おそらく」


 ネアは銀青色の線を風へ伸ばした。

 線は弾かれない。

 風に乗り、村の外へ続いていく。


「こちらの存在を確かめたうえで、来るように促しています」

「私たちを?」


 ミレナが尋ねる。


「特に、あなたを意識しています」


 風はもう一度ミレナの周囲を回った。

 以前なら、その中にある流れの一本一本まで分かった。

 今のミレナには、ただ少し強い風が吹いているようにしか感じられない。


「行きます」


 ミレナは迷わず言った。


◆ 出発する者


「俺たちも行く」


 セトが報告書をまとめる。


「森へ向かう前に、新しいアイオロスの状態を確認しておく必要がある」

「私も行く」


 シアが言う。


「わたしもです。生まれた直後の流れを確認できる機会は多くありません」


 ハルヴェンは地図と報告書を見比べた。


「俺たちは、予定どおりヴァレストへ戻ります」

「見なくていいのか」


 リグが尋ねる。


「見たい気持ちはあります。ただ、ほかの地域では、すでに人が避難を始めています。各国へ方針を伝える方が先です」

「分かった。俺も戻る」


 リグはセトを見る。


「新しい風が話を聞くなら、今の世界を教えてやれ」

「ああ」

「話を聞かなければ?」


 シアが尋ねる。


「その時は、まず被害を止める」

「つまり戦う」

「話をするために止めるんだ」

「分かっている」


 兵たちは報告書を持ち、ハルヴェンたちと村を出た。

 セトたち四人は、残った風を追った。


◆ 風の道


 風は、道を外れても途切れなかった。

 草を大きく倒すことも、枝を折ることもない。

 セトたちが進む方角だけ、葉の裏側を見せる。


「ずいぶん加減ができている」


 シアが言った。


「生まれた直後の精霊王とは思えません」


 ネアも周囲の流れを調べ続けていた。


「ほかの次代とは違うのか」

「少なくとも、役割のまま無制限に風を広げようとはしていません」


 ミレナは黙って歩いていた。

 風が曲がる前に、次に進む方向が分かる気がする。

 しかし、実際に分かっているわけではない。

 以前の感覚を覚えているため、風の動きから先を予想しているだけだった。


「知っている道ですか」


 ネアが尋ねる。


「いいえ。でも、知らない気がしません」

「役割の知識は戻っていませんね」

「戻っていません。ただ、前の私は、この風ならこちらへ行くと思った。その考え方だけは覚えています」


 力はない。

 それでも、力を持っていた自分の記憶は残っている。

 その記憶の先から、別の風が呼んでいた。


◆ 風が確かめるもの


 途中で、風が何度か止まった。

 セトたちが追いつくと、再び先へ進む。


「急がせてはいない」


 セトが言う。


「来ているか確かめています」


 ネアの線も、風が止まるたびに同じ場所で揺れた。


「私たちが途中で戻らないように?」


 ミレナが尋ねる。


「それもあるでしょう。ただ、別の意図も感じます」

「別の意図?」

「自分の風が、人間を傷つけずに届いているか確認しています」


 風は道の脇を歩いていた小さな獣を避けた。

 干してあった布の近くでは弱まり、誰もいない岩場では少し強くなる。


「生まれたばかりなのに、周りを見ている」


 シアが言った。


「そう見えます。ただ、何を基準に避けているのかまでは分かりません」

「会えば分かる」

「ええ」


 自分たちを呼びながら、その途中にあるものは壊さない。

 少なくとも、その風が無差別に広がっているわけではなかった。



※第32話「フィオラ」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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