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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第31話 生まれ直した王たち

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(五)新しい風

◆ 倒しても終わらない


「人が巻き込まれるなら、止める必要はある」


 セトが言う。


「ですが、消滅させることを最初の答えにはできません」


 ネアは四枚の報告書を重ねた。


「次代の精霊王は、悪意で世界を壊しているわけではありません。自分の役割を果たしているだけです」

「役割だけで動いて、人が死んでも同じだ」


 シアが言う。


「結果は同じです。だから止めます」

「倒さずに?」

「必要なら戦います。ただし、消滅させても一か月後に次が生まれます」


 同じ役割と、同じ創世期の知識を持つ次代が生まれれば、問題は繰り返される。


「何度も倒しても意味がない」


 セトが言う。


「ええ。それどころか、役割が世界から長く欠ければ、別の異常が起きます」


◆ 今の世界へ


「では、どうする」


 リグが尋ねた。


「今の世界を覚えてもらいます」


 ネアが答える。


「人間の町があり、森にも広がってよい範囲があり、氷にも必要な場所と量がある。役割を捨てさせるのではなく、今の世界で果たす方法を知ってもらう必要があります」

「教えるのか」

「言葉だけで理解するなら」

「生まれたばかりの相手に、国の決まりを説明するのか」


 リグが尋ねる。


「国の決まりから始めても理解されないでしょう」

「では、何を教える」

「自分の役割以外にも、そこに残るべきものがあることです」


 森を増やすことだけが世界ではない。

 氷を広げることだけが循環ではない。

 人間だけを優先するのでもなく、精霊王の役割だけを優先するのでもない。


「しなかったら?」


 シアが尋ねる。


「止めながら教えます」

「つまり戦う」

「あなたの場合、最初から戦う意味になります」

「話している間に森が広がる」

「ですから、広がるのを止めたうえで話します」


 セトは地図を見る。

 倒すためではない。

 次代の精霊王を、現在の世界へ適応させるために動く。

 それは眠りの王を倒すより、長くかかるかもしれなかった。


◆ 最初に確かめること


「四か所へ同時には行けない」


 セトが言う。


「各国には、避難を優先するよう伝えます」


 ハルヴェンが答えた。


「俺とリグはヴァレストへ戻ります。各地の騎士へ、討伐ではなく避難と足止めを優先するよう伝えます」

「ヴァルナはどうする」


 シアが祠の方を見る。


「村の人たちへ任せられるところまで安定しています」


 リグが言う。


「毎日、誰かが来る。今のこいつには、それが一番効いている」

「セトたちは?」

「まず、生まれた精霊王の状態を近くで確かめる」

「広がっている森か」

「報告された場所では、そこが最も近いでしょう」


 ネアが地図へ印を付ける。


「ただし、各国へ同じ方針を伝えてください。無理に討伐せず、住民を逃がし、広がる範囲と速度を記録する。会話ができるなら、何をしようとしているかを聞く」

「倒せる者がいても待たせますか」


 兵が尋ねる。


「被害を止めるための攻撃は必要です。ですが、消滅させることを目的にはしないでください」


 ネアは、広がる森の報告へ目を向ける。


「その前に、もう一つ確認することがあります」

「何だ」

「風の役割です」


◆ 風の帰る場所


 ミレナの中から離れた風の役割も、世界へ返っている。

 ほかの精霊王と同じなら、そろそろ次代が生まれる。


「私の次が生まれるんですね」


 ミレナが言った。


「役割としては、そうです」

「私ではない」

「ええ」


 ネアはすぐに答えた。


「記憶が残る可能性はありますか」

「風の役割は、長い間、人間の血統と重なっていました。ほかの精霊王と同じ再生になるかは分かりません」


 ミレナは窓の外を見る。

 風が木々を揺らしている。

 以前なら、その流れの先まで分かった。

 今は、頬へ触れた空気を感じるだけだった。


「生まれたら、会いたいです」

「怖くないのか」


 シアが尋ねる。


「少し怖いです。でも、知らないままにはしたくありません」


◆ 新しい風


 その時、開けていた窓から強い風が入った。

 机の上の報告書が一斉に浮く。

 セトが手で押さえるより先に、紙は空中で向きを変え、元の順番のまま机へ戻った。

 ただの突風ではない。

 シアとネアが同時に外を見る。


「近い」


 シアが言う。


「ええ」


 ネアは銀青色の線を風の中へ伸ばした。

 線は弾かれず、遠くへ運ばれていく。

 風は村を壊さない。

 屋根をはがさず、木を折らず、人の間だけを抜けていった。


 荒々しく世界を作り替える他の気配とは違う。

 それでも、ミレナが扱っていた風より大きく、精霊王として独立した流れだった。


「生まれました」


 ネアが言う。


「新しいアイオロスです」


 ミレナは、自分の中には何も戻っていないことを確かめた。

 それから、自分ではない風が来た方角を見た。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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