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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第31話 生まれ直した王たち

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(四)創世期の知識

◆ 届いた報告


 数日後、村へ二頭の馬が入ってきた。

 王都から各地の報告を運んできた兵だった。

 眠りの王との戦い以降、五国は原光の異常を優先して共有している。

 机へ広げられた紙には、別々の地域で起きた現象が記されていた。


 温暖だった土地では、雪に覆われる範囲が急速に広がっている。

 別の地域では、森が一晩で街道を覆い、切り開いた場所も数時間で元へ戻った。

 平地が持ち上がり、新しい丘と裂け目ができた場所もある。

 岩肌から結晶が成長し、畑と家の壁まで覆い始めた地域もあった。


「全部、ほぼ同じ頃からか」


 セトが尋ねる。


「確認された時刻には差がありますが、ほぼ同じ頃です」


 兵が答えた。


「魔物の被害ではありません。術を使う者の姿を見たという報告もあります」


◆ 世界を作る者


「術を使う人間ではありません」


 ネアは報告書を一枚ずつ見た。

 報告には、人型の存在を見たという記述もあった。

 雪の中心には、白い人影が立っていた。

 森を切り開こうとした兵の前には、樹皮のような衣をまとった者が現れた。

 地面が動いた地域では、何もない空間へ向かって話す声だけを聞いた者もいる。


 どの存在も、人間を追って攻撃したわけではない。

 ただ、自分の作業を妨げる者を押し退け、また世界へ力を加え始めた。


「氷、樹、土、晶。おそらく、次代の精霊王です」

「生まれてすぐに、こんなことをするのか」


 ハルヴェンが尋ねる。


「本人たちにとっては、するべきことなのでしょう」

「街道を森で潰すことが?」

「樹の役割から見れば、生命を増やし、大地を森で覆うことは間違いではありません」

「畑も家も埋めている」

「今の世界を基準にすれば、間違いです」


 ネアは雪の報告を指す。


「氷も同じです。寒い土地を作り、熱の偏りを分ける。世界が形を持ち始めた頃には、必要だった可能性があります」


 シアが報告書をのぞき込む。


「今は、もうできている」

「ええ。ですが、次代はその違いを知りません」


◆ 創世期の知識


「知識は受け継ぐんじゃないのか」


 セトが尋ねた。


「受け継ぎます」

「なら、人間がいることも知っているはずだ」

「知っていることと、加減できることは別です」


 ネアは少し考えてから続ける。


「精霊王が代を重ねる中で得た、人間との関わりや、現在の地形への慣れは、記憶に近いものです」

「眠りの王の中で消えた」

「おそらく。創界で戻せたのは役割です。そこから生まれた次代には、整った知識はあっても、前代が積み重ねた経験はありません」


 残るのは、属性をどう扱うか。

 世界の中で何を担うか。

 より古く、役割へ近い知識ほど強く残る。


「創世期の精霊王に近い」


 ネアが言った。


「創世期?」


 ハルヴェンが聞き返す。


「山や海、寒冷地や森が、今のように分かれていなかった時代です。精霊王が役割を大きく動かすこと自体が、世界を整える働きだったのでしょう」

「それを今やっている」

「ええ。完成した家の中で、建てる時と同じ作業を始めているようなものです」

「壁も床も作り直す?」


 ミレナが尋ねる。


「住んでいる人間ごと」

「世界がまだ整っていない頃の正しさを、今の世界へそのまま使っています」


◆ 加減のない力


「生まれたばかりなら、力も弱いんじゃないのか」


 ハルヴェンが尋ねた。


「普通なら、その傾向はあります」

「今回は違う?」

「報告を見る限りは」


 森は一晩で街道を覆った。

 雪は複数の村へ届く速さで広がっている。

 地形そのものが変わり、結晶は人間の術では止められない。


「役割へ近い分、世界とのつながりも強いのかもしれません」


 ネアは断定しなかった。


「力が以前の王より大きいのか、単に抑えていないから大きく見えるのかは、まだ分かりません」

「会って確かめればいい」


 シアが言う。


「シアも、生まれた時は似た状態だったのか」


 セトが尋ねる。


「違う。私は最初から加減できた」

「セトから聞いた話では、大型魔獣を地面へ叩きつけたそうですね」


 ネアが言う。


「あれは必要だった」

「大会でも、前へ出ればすぐ終わると言っていたそうですが」

「早く終わるなら、その方がいい」

「今も変わっていませんね」


 シアは不満そうにネアを見る。

 それでも、シアには人間の町を火で作り替えようとする考えはなかった。

 歴代イフリートが人間と関わった知識や、誕生してからの一年で得た経験が、役割の使い方へ境界を作っていた。


「そして止める」

「止まらなければ?」


 リグが尋ねた。


「倒す」

「すぐにそう考えないでください」


 ネアが止める。



※第31話「生まれ直した王たち」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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