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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第31話 生まれ直した王たち

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(二)名前を呼ぶこと

◆ 早すぎた再生


 四人は、ミレナが借りていた家へ戻った。

 この一か月、ネアは自分とシアの流れを毎日調べていた。

 眠っている時、力を使った時、精霊剣となった時、人型へ戻った時。

 どの状態でも、記憶が急に欠けたり、以前とは異なる人格が表へ出たりすることはなかった。

 シアは三日目で調査に飽きたが、ネアは一か月続けた。


「毎日同じ結果だった」

「同じ結果が続いたことも情報です」


 ネアは机の上へ三つの小石を置く。


「通常、精霊王が死亡すると、役割と原光は一度世界へ散ります」


 小石を離して置く。


「それが再び集まり、次代の身体を作るまで、およそ一か月かかります」

「シアさんとネアさんは、すぐに戻りました」


 ミレナが言う。


「ええ。わたしたちは創界の中で消滅しました」


 ネアは二つの小石だけを近づける。


「創界は折れた後も、わたしたち三人を別々のまま保持していました。役割も原光も、世界へ広く散らなかったのでしょう」

「集め直す必要がなかった」


 セトが言う。


「おそらく。ですから、次代再生がその場で始まりました」

「ミレナは再生しなかった」

「ミレナには、人間の身体が残っていました。風の役割だけが離れたからです」


◆ 知識と記憶


 ネアは、残る一つの小石を少し離した。


「精霊王が受け継ぐ知識は、整っています」


 火をどう扱うか。

 月の力で原光をどう動かすか。

 役割を果たすために必要な方法は、誰が、いつ、どこで知ったかを失っても残る。


「記憶は違います。状況や感情、他者との関係が混ざっています」


 セトと初めて会った時のこと。

 精霊剣となることを選んだ時のこと。

 嫌だった言葉や、失いたくないと思った相手。


「通常の次代は、知識を持っていても、それを経験した本人ではありません」

「私たちは両方ある」


 シアが言う。


「ええ」


◆ 創界に残ったもの


 ネアは、残る一つの小石を少し離した。


「通常の次代再生で受け継がれるのは、役割と知識です。個人の記憶と人格は受け継がれません」

「でも、二人は覚えています」

「創界は、三人を混ぜずに一つの剣へ通すための器でした」


 ネアは二つの小石の間へ指を置く。


「眠りの王を分けている間も、折れた後も、シアはシア、わたしはわたし、ミレナはミレナとして保たれていました」

「創界が、記憶まで持っていた?」

「記録していたのではなく、消える直前まで、わたしたちの形を崩さなかったのだと思います」


 知識だけではない。

 誰を知っているか。

 何を選んだか。

 何を怖いと思い、何を守ろうとしたか。

 そうした整っていないものまで、二人の内側に残っていた。


◆ 名前を呼ぶこと


「では、セトさんが名前を呼んだから戻れたんですか」


 ミレナが尋ねる。


「名前だけで人格が作られたわけではありません」


 ネアは答えた。


「残っていないものを、呼び声だけで戻すことはできなかったでしょう」

「残っていたから、届いた」

「ええ。セトとのつながりが切れず、そこへ名前が通りました」


 火の精霊王ではなく、シア。

 月の精霊王ではなく、ネア。

 役割ではなく、どちらの個人へ向けた呼び声なのかが分かれた。


「創界が境界を保ち、つながりが道を残し、名前が戻る先を示した。今考えられるのは、その三つです」

「全部あったから戻った」


 シアが言う。


「おそらく」

「どれか一つだけでは足りなかった可能性があります。創界が境界を保っても、つながりが切れていれば世界へ散ったかもしれません。つながりがあっても、二人の境界が崩れていれば、どちらへ呼びかけているのか分からなかったでしょう」

「名前がなくても戻れた?」


 ミレナが尋ねる。


「分かりません。ただ、役割名だけでは、今代のわたしたちを指せません」

「では、私たちは前と同じだ」

「そこまでは証明できません」

「また面倒な言い方をする」


◆ 証明できないこと


「身体は、次代のものです」


 ネアは自分の胸へ手を置いた。


「一度消滅したことも事実です。前のわたしが続いているのか、同じ記憶と人格を持つ次代が、自分をネアだと思っているのか。外から確かめる方法はありません」

「ネア自身にも?」


 セトが尋ねる。


「ありません」

「なら、どうする」

「わたしは、あなたたちを覚えています。自分が選んだことも、嫌だったことも覚えています」


 ネアはシアを見る。


「シアへ何度も注意したことも覚えています」

「そこは忘れてもよかった」

「今の反応も以前と同じです」


 ネアの口元が、わずかに緩む。


「証明はできなくても、わたしはネアとして続くつもりです」

「前のネアさんと同じ選び方をするから?」


 ミレナが尋ねる。


「同じ選び方をするとは限りません。前のわたしも、昨日と今日で考えを変えることはありました」


 変わることと、別人になることは同じではない。

 記憶を持ち、関係を持ち、自分を同じ名前で認識しながら、その先で新しい選択を重ねる。

 ネアは、それを続いていると考えることにした。


「なら、それでいい」


 セトが言った。

 シアもうなずいた。



※第31話「生まれ直した王たち」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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