(一)同じ二人か
◆ 一か月後
眠りの王を倒してから、一か月が過ぎた。
セトたちは、ミレナの村に残っていた。
戦いの直後は、全員がまともに動けなかった。
セトは全身を打ち、以前に痛めた右脚にも再び腫れが出た。
ミレナも、創界から戻った直後に受けた衝撃で、数日は一人で起き上がれなかった。
次代として生まれ直したシアとネアも、身体ができた直後から自由に動けたわけではない。
二人とも姿は以前と同じだったが、原光の流れが身体へ定着するまで、何度も輪郭が薄くなった。
今は、もうその心配もない。
セトは村の外れを走り、白刃と黒刃を続けて振った。
右脚に痛みはない。
身体のどこにも、眠りの王との戦いで負った傷は残っていなかった。
「本当に治ったな」
白刃を消し、右脚へ体重をかける。
谷へ向かう前まで残っていた鈍い痛みもない。
創界を振るう間に無理を重ねた筋肉も、吹き飛ばされた時に打った背中も、すべて元へ戻っていた。
治療に特別な術を使ったわけではない。
眠りの王が消え、周囲の原光が正常へ戻ったことで、治癒の術も人間の回復も、本来の速さで働くようになった。
「何度確認するんですか」
後ろから見ていたネアが言った。
「動けることと、治ったことは違うと何度も言われたからな」
「今回は、どちらも問題ありません」
◆ 傷のない身体
シアは、セトの横を走り抜けた。
地面を蹴ると同時に赤橙色の光が弾け、少し離れた岩の上へ着地する。
「私も問題ない」
「昨日も同じことをしていただろう」
「昨日より速い」
「比べる必要がありますか」
ネアが尋ねる。
「ある。新しい身体だから、前より強いかもしれない」
「昨日までと同じ範囲です」
「もっと強くやれば分かる」
「村の近くで試さないでください」
シアは岩から降り、自分の手を開いた。
赤橙色の炎が小さく灯る。
色も、熱も、以前と変わらない。
ネアも銀青色の線を伸ばし、周囲を流れる原光を曲げた。
二人の役割は、次代として完全に戻っている。
知識にも、大きな欠落は見つかっていない。
それでも、以前と同じだと言い切れるのかは、別の問題だった。
髪の長さも、顔立ちも、声も以前と同じだった。
それでも、身体を構成する原光は一度ほどけ、次代として組み直されている。
外見が同じことだけでは、以前の二人がそのまま戻った証明にはならなかった。
◆ 剣へ戻れる
回復を確かめるため、二人は一度ずつ精霊剣にもなった。
最初にシアが極炎となり、セトの右手へ収まった。
炎の流れも、身体へ返ってくる力も、以前と変わらない。
人型へ戻った後、ネアも絶光となった。
原光を吸収し、偏向し、セトの動きへ合わせる感覚も同じだった。
「つながりは残っている」
セトが言う。
「残ったのか、新しく同じ形でつながったのかは分かりません」
ネアは自分の手首へ銀青色の線を巻き、流れを確かめていた。
「違うのか」
「結果だけなら同じです」
「なら同じでいい」
「セトは、そう言うと思いました」
「不都合があるのか」
「ありません。ただ、同じ結果へ至ったから同じものだと決めるのは、説明としては不十分です」
「説明が必要な相手がいるのか」
「まず、わたし自身に必要です」
シアが二人の間へ入る。
「私は私だ。剣にもなれる。問題ない」
「前は、たぶんそうだと言っていただろう」
「あの時は、生まれた直後だった」
「今は?」
「私はシアだ」
答えは早かった。
◆ 同じ二人か
村へ戻る道で、ミレナが待っていた。
両手に布を入れた籠を持っている。
「もう走っても大丈夫なんですか」
「ああ。ネアにも確認された」
「わたしは、走る前に確認しました」
「私は走った後に確認された」
「止める前に走ったからです」
ミレナは少し笑い、それからシアとネアを見た。
「お二人も、もう大丈夫なんですね」
「問題ない」
シアが答える。
「少なくとも、身体と役割は安定しています」
ネアの言い方には、わずかな留保があった。
ミレナはそれに気づく。
「まだ、分からないことがあるんですか」
「わたしたちが、なぜ記憶と人格を持ったまま次代になれたのかについては、推測しかありません」
「一か月考えても?」
シアが尋ねる。
「一か月考えたから、推測の形までは整いました」
※第31話「生まれ直した王たち」は全五回です。
続きます。
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