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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第30話 放つ・分ける・束ねる

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(五)折れる音

◆ 逃げ先


「ここから離れる時間くらいはある」

『その後は?』


 ネアが尋ねる。


『別の場所で、もう一度創界へ入るのですか』

「剣を直してからだ」

『直せる者はいません』

「なら、別の方法を探す」

『眠りの王が待ってくれるか?』


 シアの声が届く。


「それでも、お前たちが消えるよりは」

『私たちが戻れば、眠りの王は私たちも取り込みます』


 ネアは静かに言った。


『精霊剣としてつながっている間は耐えられても、人型へ戻り、この空白の中へ立てば長くは持ちません』

『私は人間へ戻れます』


 ミレナが続ける。


『でも、世界から逃げることはできません』


 ひびが少し伸びた。


『私は続ける』


 シアが言う。


『わたしもです』


 ネアが続く。


『私も、ここで束ねます』


 ミレナが言った。


「勝手に決めるな」

『セトも、もう決めています』


 ネアが言う。


◆ 深い境界


 眠りの王がさらに近づく。

 セトは創界を構え直した。


「戻れと言ったのに、戻らないのか」

『はい』


 ネアが答える。


『では、使い手はどうしますか』


 セトは息を吐いた。


「最後までやる」

『ああ』


 シアの声が笑った。

 三人の流れが再びそろう。

 ミレナが束ねる。

 ネアが、先ほどより深く眠りの王を見る。


『外側から順に分けていては、創界が先に壊れます』

「どうする」

『すべての役割と眠りの王を、一度に分けます』

「できるのか」

『見えています。だから、分けます』


 銀青色の線が、眠りの王全体へ広がった。

 取り込まれたすべての役割が、別々の輪郭を持つ。

 空白だけが、その中央へ残った。


『シア』

『分かってる。全部通す』


◆ 折れる音


 赤橙色の光が、創界の内部を満たした。

 三本の流れは混ざらない。

 だが、三つを囲う刀身外枠が耐えられない。

 ひびが鍔まで達した。


「止めろ!」

『止めません』

『ミレナ、ずらすな!』

『はい!』


 セトは創界を振り下ろした。

 境界が眠りの王の中心へ届く。

 世界と役割と空白が、別々のものとして揺れた。

 その瞬間、創界が折れた。

 刀身の中央から、左右の外刃が砕ける。

 白銀色の破片が谷へ散った。

 セトの手には、柄と短く残った根元しかない。


「シア!」


 返事がない。


「ネア! ミレナ!」


 折れた破片が地面へ落ちる。

 眠りの王は、まだ目の前にいる。


◆ 剣の中


『聞こえてる』


 シアの声が戻った。


「どこにいる」

『創界の中です』


 ネアも答える。


「創界は折れた」

『形が折れただけです』


 セトの手に残る柄から、三本の光が伸びていた。

 赤橙色。銀青色。淡い銀緑色。

 刀身はない。

 それでも、三本は同じ先へ向かっている。


『まだ束ねられます』


 ミレナが言う。


「剣がない」

『ある』


 シアの声が強くなる。


『折れただけだ。まだ死んでない』

『創界の権限は残っています』


 ネアが続ける。


『境界も消えていません。最後まで通せます』

「お前たちは戻れるのか」


 短い沈黙があった。


『終わらせてから確かめます』

「ネア」

『今は、眠りの王です』


◆ 柄に残った境界


 刀身の破片は、ただの物質には戻っていなかった。

 地面へ落ちた破片の間に、薄い線が残っている。

 一本の剣だった時と同じ輪郭を、光のない境界だけが保っていた。


『創界は、剣の材料が本体ではありません』


 ネアの声が、先ほどより遠く聞こえる。


『三人を分けたまま入れ、世界を見て、境界を作る働き。それがまだ残っています』

「どれくらい持つ」

『分かりません』

『一回分は持たせる』


 シアが言う。


『持たせるって、どうやって』


 ミレナが尋ねる。


『壊れる前に全部出す』

『具体性はありませんが、今はそれしかありません』


 三人の声は別々だった。

 創界は、その違いをまだ保っている。


◆ 最後まで


 眠りの王の中で、分けられた役割が再び混ざり始める。

 時間はない。

 セトは柄だけになった創界を両手で握った。

 刀身の代わりに、三本の光が境界の形を作る。


『束ねます』


 ミレナが三人の向きをそろえる。


『分けます』


 ネアが眠りの王と、取り込まれたすべての役割を切り離す。


『放つ!』


 シアが、その結果を現実へ押し出す。

 セトは、存在しない刃を振り抜いた。


「眠りの王だけを終わらせる!」


 谷を覆う空白へ、一本の境界が走った。

 土が離れる。

 氷が離れる。

 光、樹、重さ、結晶、いくつもの役割が、別々の原光として空へ昇る。

 最後に、何も持たない空白だけが残った。



※第30話「放つ・分ける・束ねる手」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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