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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第30話 放つ・分ける・束ねる

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(四)一つ目のひび

◆ 放つ


 赤橙色の流れが、創界の根元から切っ先へ走った。

 炎を撃つのではない。

 ネアが定めた境界を、現実へ押し出すための力だった。


『放つ!』


 セトは創界を振るった。

 刃は眠りの王の身体へ届いていない。

 それでも、境界が空白の内部へ通った。

 眠りの王の表面が揺れる。

 土の力が一瞬だけ外へ浮かぶ。

 氷の流れが、空白から離れかける。

 だが、どちらもすぐに引き戻された。


「一度では足りない」

『ええ。境界が現実へ定着する前に、眠りの王が戻しています』


 空白の輪郭が大きく揺れた。


◆ 眠りの反応


 眠りの王に敵意はない。

 それでも、自分から分かれようとするものを再び取り込もうとする。

 谷全体の地面が持ち上がった。

 巨大な土の壁が、四方からセトへ迫る。


『右です』


 ネアの声に従い、セトは隙間へ走る。

 足元が凍った。

 シアの炎が創界から漏れ、氷を砕く。

 頭上から結晶の柱が落ちる。

 ミレナが三人の力を一方向へ束ね、創界の側面で受け流した。


「創界は攻撃にも使えるのか」

『今は、分けるための流れを守っているだけです』


 ネアが答える。

 空白の周囲へ樹木が生え、枝が一斉に伸びた。

 セトは切り払いながら進む。

 どの攻撃にも意思はない。

 役割だけが、眠りの王の一部として働いている。


「もう一度だ」

『束ねます』


 ミレナが、攻撃を受けて散りかけた三つの流れをそろえる。


『分けます』


 ネアが先ほどより深く境界を探る。


『放つ!』


 シアが境界を現実へ通す。

 セトは二度目の斬撃を振り抜いた。

 眠りの王から、複数の色が飛び出す。

 だが、空白から伸びた腕が、それらをまとめて引き戻した。


◆ 混ざった防御


 空白の内部から、白い光が押し寄せた。

 直後には冷気へ変わり、セトの外套が凍る。

 結晶が氷の内側から成長し、身体を固定しようとした。


『左へ流します』


 ミレナが三人の力を束ね、進む向きを変える。

 セトは身体をひねり、結晶の外へ抜けた。

 右脚へ痛みが走る。

 止まれば、伸びた樹の根と土の壁に囲まれる。


『足は』

「動く」

『動くかではなく、持つかを聞いています』

「終わるまでは持たせる」

『それは答えになっていません』

『でも進む!』


 シアの出力が強まり、正面の壁へ細い道を開いた。


「まだだ」


 セトは空白の中心へ踏み込む。

 三人は、もう一度同じ工程を繰り返した。

 束ねる。

 分ける。

 放つ。

 三度目の境界が、眠りの王のさらに奥へ通った。


◆ 一つ目のひび


 眠りの王の身体から、土と氷の流れが離れた。

 色を取り戻した原光が、空へ上がる。

 空白の身体が少し小さくなった。


『効いています』

「続ける」

『待ってください』


 ネアの声と同時に、創界から硬い音がした。

 刀身外枠へ、細いひびが入っている。


「ひびが」

『見えています』

「無理だ。戻れ」

『まだ使えます』

「戻れ、三人とも」


 セトは創界を引いた。

 眠りの王から離れ、使用を止めようとする。

 だが、背後の谷にも空白が広がっていた。

 来た道から原光が消え、色が薄くなっている。

 眠りの王は、戦っている間にも広がり続けていた。


『セトさん』


 ミレナが呼ぶ。


『戻ったところで、逃げる場所がありません』


◆ ひびの先


 創界のひびから、三本の光が漏れていた。

 混ざってはいない。

 だが、本来は刀身の内側を通るはずの流れが、外へ逃げ始めている。


『次に同じ量を通せば、さらに割れます』


 ネアが告げる。


「だから戻れ」

『今なら戻れます』


 ミレナの声が届いた。

 セトは柄を握る力を緩めかける。

 その瞬間、眠りの王の空白が谷の斜面を越えた。

 草の色が消える。

 岩に含まれていた原光まで抜け、表面から細かく崩れた。

 さらに遠くには、人が暮らす土地がある。

 ここで止めなければ、次に消えるのは谷だけではない。


「戻った後に、もう一度戦える保証はない」

『はい』


 ネアは否定しなかった。



※第30話「放つ・分ける・束ねる手」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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