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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第30話 放つ・分ける・束ねる

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(三)初めての起動

◆ 初めての起動


 三つの円弧が動いた。

 互いの隙間を残したまま、一つの円を作る。

 刀身中央の空洞へ、三本の光が現れた。

 赤橙色。銀青色。淡い銀緑色。

 三本は混ざらない。

 極細の無色の境界を挟み、同じ切っ先へ向かう。


『セト』


 シアとネアの声が、それぞれ届いた。


『セトさん』


 少し遅れて、ミレナの声も届く。


「ああ。全員いる」


 創界の重さが消えた。

 地面も、空も、風も消える。

 落ちたわけではない。

 セト自身が立っているという感覚だけが残った。

 そして、世界が見えた。

 山も、川も、町も、一枚の平面へ押し込まれたように広がっている。

 自分たちがいた岩山も、その中にある。

 世界は、下にあった。


◆ 上にあるもの


 セトは上を見た。

 空ではない。

 下にある世界とは別に、上にも何かが広がっている。

 世界のように見えた。

 だが、山も川も見えない。

 形を捉えようとすると、見えていたはずのものが遠ざかる。


『上にも、あります』


 ネアの声が届く。


『何だ、あれ』


 シアにも分からない。


『同じものには感じません』


 ミレナが言った。


『でも、世界のような……』


 その言葉が終わる前に、すべてが戻った。

 セトは谷の手前へ立っている。

 風が吹き、足元には土がある。

 創界も、三本の光を宿した剣へ戻っていた。


「今のは何だった」

『分かりません』

「創界が見た世界か」

『下にあったのは、たぶんそうです』

『上のは?』

『分かりません』


 四人とも見た。

 それ以上は、誰にも分からなかった。


◆ 眠りの王へ


 四人は谷の内側へ進んだ。

 大地を流れる原光が、戻らずに消えていく場所。

 その中心に、眠りの王がいることは以前の調査で分かっていた。

 境界を越えると、風は急に弱くなった。

 火は燃えにくくなり、水の流れは鈍くなる。

 色まで薄くなったように見える。

 谷の奥に、巨大な空白があった。

 黒いのではない。

 光が届かないのでもない。

 そこだけ、色を持つための原光が存在しない。

 空白は地面へ広がりながら、ゆっくりと人のような形を作っていた。

 頭も、腕も、顔も定まらない。

 内部では、いくつもの異なる力が境界を失って動いている。

 氷が生まれた直後に光へ砕かれ、樹木が伸びた場所を結晶が覆う。

 地面が持ち上がり、次の瞬間には重さを失って崩れた。


『全部、混ざっている』


 シアの声が低くなる。


『ええ。眠りの王の一部として』


◆ 最初に見る


 眠りの王が、四人へ気づいた様子はない。

 敵意もない。

 ただ、周囲にある原光を取り込み続けている。

 創界の空洞越しに見ると、空白の内部へ無数の流れが見えた。


『創界が見ています』


 ネアが言う。

 地上から見れば、一つの巨大な空白でしかない。

 創界を通すと、その中へ重なったものが見える。

 土。氷。樹。重さ。結晶。光。

 ほかにも、名を判別できない役割がある。

 どれも一つの身体へ溶け、どこからどこまでが何なのか分からない。


「見えるだけでは分けられない」

『だから束ねます』


◆ 束ねる


 ミレナの風が、創界の内側を巡った。

 三本の流れの位置がそろう。

 混ざらないまま、同じ方向へ向く。

 シアが見ているもの。ネアが見ているもの。ミレナが見ているもの。

 三人の視点が重なり、同じ眠りの王を、同じ位置から捉える。

 セトにも、三人が同じものを見ていると分かった。


 ミレナは少し疑問に思う。

 三人の視点、創界を通した視点。ほとんど共通なはず。

 しかし、異なる視点、少なくとも2種類の視点の存在を感じる。

 

 おそらく創界で分けるために必要な視点。

 ならば束ねる必要がある。


『束ねました』


◆ 分ける


『次は、わたしです』


 銀青色の流れが、刀身の中央へ広がった。

 眠りの王の中へ、細い線が走る。

 斬ったのではない。

 重なっていたものの間へ、境界を見つけている。


『これは世界です』


 一つ目の線が、大地と眠りの王を分ける。


『こちらが、取り込まれた役割』


 二つ目の線が、眠りの王の内部へ枝分かれした。

 土と氷。樹と結晶。重さと光。

 まだ名の分からない、いくつもの役割。

 それぞれが別の流れとして輪郭を取り戻す。


『残った空白が、眠りの王です』


 最後の線が引かれる。

 一つにしか見えなかった巨大な存在が、無数の層へ分かれて見えた。

 まだ現実には分かれていない。

 創界の内側で、別のものとして定められただけだった。


「これを、外へ出す」

『ああ』


 シアの炎が強くなる。



※第30話「放つ・分ける・束ねる手」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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