(二)三人が入る
◆ 四人の役目
「内側に入って、前より分かったことがあります」
ネアが三つの円弧を見る。
「放つ、分ける、束ねるは、創界が持つ三つの別能力ではありません。創界を使うために、三人が行う役目です」
「順番は?」
セトが尋ねる。
「最初に、創界が対象と世界を見ます」
「世界を見る」
シアが、前日に受け取った言葉を繰り返す。
「次に束ねます」
ネアはミレナを見る。
「三人を混ぜるのではありません。三人が別々のまま、同じものを、同じ向きから見るためにそろえます」
「私が、三人の向きを一つにする」
「ええ。その後、わたしが分けます。眠りの王、取り込まれた精霊王の役割、そして世界。その境界を見つけ、別のものとして定めます」
「最後が私か」
「シアが、定めた境界を創界の外へ放ちます」
「セトは?」
ミレナが尋ねた。
「三人すべてとつながった使い手です。三人を別々のまま受け取り、何を終わらせるかを選び、剣として通します」
◆ 使用する順序
ネアは地面へ四本の線を引いた。
「見る。束ねる。分ける。放つ」
最後に、四本を一つの矢印で囲む。
「そしてセトが振るう、ではないのか」
シアが言う。
「セトは最初から最後まで必要です。創界を持ち、三人とのつながりを保ち、分ける対象を決めます」
「決めるのはネアじゃない?」
「わたしは分けます。ただ、どちらを残し、どちらを終わらせるかは、剣を振るう者の選択です」
セトは四本の線を見る。
「眠りの王だけを終わらせる」
「そのために、取り込まれた役割と眠りの王を、別のものとして見なければなりません」
「元の精霊王は戻るのか」
「人格と記憶は、すでに眠りの王の中で境界を失っています」
ネアは曖昧にしなかった。
「戻せるのは役割です。元の個人を、そのまま取り出すことはできません」
シアは黙って線を見た。
「それでも、次が生まれる」
「ええ。役割が世界へ戻れば、次代の再生は始まります」
◆ 名前を持つ道
「創界の中で、私たちは名前を失いませんか」
ミレナが尋ねた。
「三つの流れは、役割だけを入れる場所ではありません」
ネアは答える。
「わたしが入った時も、セレーネとしてではなく、ネアとして考え、戻れました」
「それを保つのも、セトの役目か」
シアが言う。
「ええ。三人すべてを一つの力として扱いながら、誰が誰かを取り違えないこと」
セトは、シア、ネア、ミレナを見る。
「いつもと同じだ」
「簡単に言いますね」
「三人を混ぜて使ったことはない」
極炎はシアだ。絶光はネアだ。翔嵐はミレナだ。
同じ手に三本のつながりを持っても、誰かを別の誰かとして扱うことはない。
◆ ミレナの選択
ミレナは創界の前へ座った。
「使った後、私はどうなりますか」
「風の役割と人間のミレナが分けられる可能性が高いです」
「人間として残れる?」
「創界が目的どおり働けば」
「風の力と知識は?」
「世界へ戻ります」
ミレナは自分の右手を握った。
風を使えるようになってからも、何度も繰り返した動作だった。
「私は、普通の人間へ戻りたいです」
「知っています」
「でも、それだけで創界へ入るわけではありません」
ミレナはセトを見る。
「眠りの王を止めたいです。今いる人たちが、役割だけになって消えるのは嫌です」
「戻れない可能性もある」
「はい」
「今なら、まだやめられる」
「やめません」
迷いがないわけではない。
怖くないわけでもない。
それでも、ミレナは自分で答えた。
「私が決めました」
◆ 三人が入る
セトは創界を両手で構えた。
最初にミレナが風の側を前へ出す。
栗色の髪へ銀緑色が重なり、瞳の色が薄く変わる。
シアとネアが、その左右へ並んだ。
「戻る時は、つながりを逆にたどる」
シアが確認する。
「使用を止められる間は、です」
「分かった」
「本当に分かっていますか」
「途中でやめるつもりはない」
「それは、分かったとは言いません」
ミレナが小さく息を吐いた。
「少し安心しました」
「何がだ」
「創界へ入る直前でも、いつもの二人なので」
シアが笑う。
「セト、呼べ」
セトは三人を順に見た。
「シア」
赤橙色の光が、創界へ入る。
「ネア」
銀青色の光が、別の円弧へ入る。
「ミレナ」
淡い銀緑色の光が、残る円弧へ入った。
※第30話「放つ・分ける・束ねる手」は全七回です。
続きます。
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