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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第29話 創界の守り手

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(八)三人のまま

◆ 三人のまま


「使う時、三人はどうなる」


 セトが尋ねる。

 シアは自分の中へ残る断片を探る。


「創界へ入る」

「精霊剣と同じように?」

「近い。でも、三人で一つになるんじゃない」

「三人のまま、剣へ入る」


 ミレナが言う。


「ああ」

「使い手には、三人すべてとのつながりが必要です」


 ネアが創界の柄を見る。


「創界の中で三人を別々の個人として保ち、そのうえで一つの剣として扱う。使い手にも、三人を混同せず受け取れることが求められるのでしょう」


 セトは創界を持ったまま、三人を見る。


「三人が必要な理由は分かった」


 セトが言う。


「役目も、たぶん分かった」

「効くかは分からない」


 シアが付け足す。


「眠りの王に使ったことはない」

「使った後に、三人がどうなるかも分かりません」


 ネアが言う。


「残滓にありませんか」


 ミレナが尋ねる。


「欠けている」


 シアが答えた。


「創界へ入るところまではある。その先が、ほとんど残っていない」


 ミレナは創界を見る。

 風の側へ進むこと。

 セトへ身を預け、翔嵐となること。

 どちらも、自分で選んだ。

 だが、創界へ入ることは、まだ選んでいない。


「ミレナ」


 セトが呼ぶ。


「はい」

「今、決めなくていい」


 ミレナは少しだけ驚いた顔をした。


「束ねる役目が私だと分かっても?」

「ああ」

「ほかにできる人がいなくても?」

「それでもだ」


 必要な力が、ミレナの中にある。

 世界を守るために、その力が要る。

 それは事実だった。

 だからこそ、必要だという言葉だけで選ばせることはできない。


「創界を使うかは、俺たち全員で考える。ミレナだけに決めさせない」

「でも、私が入るかどうかは、私が決めることですよね」

「ああ」

「では、考えます」


 ミレナは創界から目をそらさなかった。


「必要だからではなく、私がどうしたいかを」


 ネアがうなずく。


「それで構いません」


 シアは創界の三つの円弧を見る。


「私は入る」

「早いですね」

「もう決めている。眠りの王を止める」

「あなたは少し考えてください」

「前から考えていた」

「わたしも、必要なら入ります」


 ネアは創界を見たまま続けた。


「ただし、何が起きるか分からないことを、決断の速さで無視するつもりはありません」

「調べれば分かる?」

「創界の中へ入る前に分かる範囲までは調べます」


 セトは二人のやり取りを聞きながら、創界の空洞へ視線を戻した。

 神殺しの剣と呼ばれていた剣。

 だが、その本質は、ただ神を殺すことではない。

 すべてを同じ眠りへ溶かすものから、違いを取り戻すための剣だった。


◆ 守り手の役目


 石室を出る前に、セトは創界を布で包んだ。

 普通の剣と同じ鞘は使えない。

 中央が空洞で、外周だけに刃があるため、左右から挟むように固定する。


「持ち出していいのでしょうか」


 ミレナが尋ねる。


「そのために場所を聞いた」

「グラウスさんは、守っていたと言っていました」

「使わせないために守っていたわけではありません」


 ネアが答える。


「場所を失わせず、条件を満たさない者へ渡さない。それが守り手の役目だったのでしょう」

「条件を満たした者へ渡すところまで含む?」


 シアが聞く。


「グラウスは、そう判断しました」

「神剣が選ぶと言っていた」


 セトは包んだ創界を背へ固定する。


「少なくとも、持つことは拒まれなかった」


 白刃と黒刃を消しても、入口は閉じなかった。

 創界が外へ出たためなのか、一度開けば維持される封印なのかは分からない。

 ネアが石室の境界を確かめる。


「創界を戻せば、再び閉じられる構造かもしれません」

「戻すのか」

「今は持っていきます」


 神剣を保管することが目的ではない。

 眠りの王に失われた境界を、取り戻すために必要だった。

 谷を下りる前、セトは一度だけ振り返った。

 岩壁の奥に、剣はない。

 守り手の一族が長く隠してきた、空の場所だけが残っている。

 グラウスが守ったのは、創界を誰にも使わせないことではなかった。

 剣が選べる時まで、場所と条件を失わせないことだった。


◆ 創界


 谷を出たところで、シアが三つの言葉をもう一度口にした。


「放つ」


 自分を指す。


「分ける」


 ネアを見る。


「束ねる」


 ミレナを見る。


「その順番で使うのか」


 セトが尋ねる。


「分からない」


 シアはすぐに答えた。


「言葉は残っている。でも、使い方は欠けている」

「三つとも必要であることだけは確かです」


 ネアが言う。


「シアが力を放つだけでは、眠りの王と取り込まれた精霊王をまとめて消す可能性があります。わたしが分けるだけでは、境界を作れても、それを創界の外へ成立させられるか分かりません」

「私は、三人を混ぜずに一つの剣へ束ねる」


 ミレナが言う。


「おそらく」

「まだ、分からないことが多いな」


 セトが言った。


「ですが、昨日までとは違います」


 ネアは、セトの背にある創界を見る。


「器があります。必要な三人もいます。三人が担う役目も分かりました」

「効くかは分からない」


 シアが付け足す。


「それを確かめるには、眠りの王へ使うしかない」


 ミレナが右手を握った。

 今ここにいる自分を確かめるために選んだ動作。

 風の側へ進んでも、剣になっても、戻るために重ねてきた動作だった。


「考えます」


 ミレナは、もう一度言った。


「創界へ入るかどうかを」


 セトは急がせなかった。

 眠りの王は待ってくれない。

 それでも、世界を守るという理由で、誰かの意思を眠らせることはできない。

 神剣・創界は、三人を一つへ溶かす剣ではない。

 三人を三人のまま、一つの目的へ通すための剣だった。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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