(八)三人のまま
◆ 三人のまま
「使う時、三人はどうなる」
セトが尋ねる。
シアは自分の中へ残る断片を探る。
「創界へ入る」
「精霊剣と同じように?」
「近い。でも、三人で一つになるんじゃない」
「三人のまま、剣へ入る」
ミレナが言う。
「ああ」
「使い手には、三人すべてとのつながりが必要です」
ネアが創界の柄を見る。
「創界の中で三人を別々の個人として保ち、そのうえで一つの剣として扱う。使い手にも、三人を混同せず受け取れることが求められるのでしょう」
セトは創界を持ったまま、三人を見る。
「三人が必要な理由は分かった」
セトが言う。
「役目も、たぶん分かった」
「効くかは分からない」
シアが付け足す。
「眠りの王に使ったことはない」
「使った後に、三人がどうなるかも分かりません」
ネアが言う。
「残滓にありませんか」
ミレナが尋ねる。
「欠けている」
シアが答えた。
「創界へ入るところまではある。その先が、ほとんど残っていない」
ミレナは創界を見る。
風の側へ進むこと。
セトへ身を預け、翔嵐となること。
どちらも、自分で選んだ。
だが、創界へ入ることは、まだ選んでいない。
「ミレナ」
セトが呼ぶ。
「はい」
「今、決めなくていい」
ミレナは少しだけ驚いた顔をした。
「束ねる役目が私だと分かっても?」
「ああ」
「ほかにできる人がいなくても?」
「それでもだ」
必要な力が、ミレナの中にある。
世界を守るために、その力が要る。
それは事実だった。
だからこそ、必要だという言葉だけで選ばせることはできない。
「創界を使うかは、俺たち全員で考える。ミレナだけに決めさせない」
「でも、私が入るかどうかは、私が決めることですよね」
「ああ」
「では、考えます」
ミレナは創界から目をそらさなかった。
「必要だからではなく、私がどうしたいかを」
ネアがうなずく。
「それで構いません」
シアは創界の三つの円弧を見る。
「私は入る」
「早いですね」
「もう決めている。眠りの王を止める」
「あなたは少し考えてください」
「前から考えていた」
「わたしも、必要なら入ります」
ネアは創界を見たまま続けた。
「ただし、何が起きるか分からないことを、決断の速さで無視するつもりはありません」
「調べれば分かる?」
「創界の中へ入る前に分かる範囲までは調べます」
セトは二人のやり取りを聞きながら、創界の空洞へ視線を戻した。
神殺しの剣と呼ばれていた剣。
だが、その本質は、ただ神を殺すことではない。
すべてを同じ眠りへ溶かすものから、違いを取り戻すための剣だった。
◆ 守り手の役目
石室を出る前に、セトは創界を布で包んだ。
普通の剣と同じ鞘は使えない。
中央が空洞で、外周だけに刃があるため、左右から挟むように固定する。
「持ち出していいのでしょうか」
ミレナが尋ねる。
「そのために場所を聞いた」
「グラウスさんは、守っていたと言っていました」
「使わせないために守っていたわけではありません」
ネアが答える。
「場所を失わせず、条件を満たさない者へ渡さない。それが守り手の役目だったのでしょう」
「条件を満たした者へ渡すところまで含む?」
シアが聞く。
「グラウスは、そう判断しました」
「神剣が選ぶと言っていた」
セトは包んだ創界を背へ固定する。
「少なくとも、持つことは拒まれなかった」
白刃と黒刃を消しても、入口は閉じなかった。
創界が外へ出たためなのか、一度開けば維持される封印なのかは分からない。
ネアが石室の境界を確かめる。
「創界を戻せば、再び閉じられる構造かもしれません」
「戻すのか」
「今は持っていきます」
神剣を保管することが目的ではない。
眠りの王に失われた境界を、取り戻すために必要だった。
谷を下りる前、セトは一度だけ振り返った。
岩壁の奥に、剣はない。
守り手の一族が長く隠してきた、空の場所だけが残っている。
グラウスが守ったのは、創界を誰にも使わせないことではなかった。
剣が選べる時まで、場所と条件を失わせないことだった。
◆ 創界
谷を出たところで、シアが三つの言葉をもう一度口にした。
「放つ」
自分を指す。
「分ける」
ネアを見る。
「束ねる」
ミレナを見る。
「その順番で使うのか」
セトが尋ねる。
「分からない」
シアはすぐに答えた。
「言葉は残っている。でも、使い方は欠けている」
「三つとも必要であることだけは確かです」
ネアが言う。
「シアが力を放つだけでは、眠りの王と取り込まれた精霊王をまとめて消す可能性があります。わたしが分けるだけでは、境界を作れても、それを創界の外へ成立させられるか分かりません」
「私は、三人を混ぜずに一つの剣へ束ねる」
ミレナが言う。
「おそらく」
「まだ、分からないことが多いな」
セトが言った。
「ですが、昨日までとは違います」
ネアは、セトの背にある創界を見る。
「器があります。必要な三人もいます。三人が担う役目も分かりました」
「効くかは分からない」
シアが付け足す。
「それを確かめるには、眠りの王へ使うしかない」
ミレナが右手を握った。
今ここにいる自分を確かめるために選んだ動作。
風の側へ進んでも、剣になっても、戻るために重ねてきた動作だった。
「考えます」
ミレナは、もう一度言った。
「創界へ入るかどうかを」
セトは急がせなかった。
眠りの王は待ってくれない。
それでも、世界を守るという理由で、誰かの意思を眠らせることはできない。
神剣・創界は、三人を一つへ溶かす剣ではない。
三人を三人のまま、一つの目的へ通すための剣だった。
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