(四)神剣・創界
◆ 先代を連れていった場所
「お前の一族が、神殺しの剣を守っていたのか」
セトが尋ねる。
「神殺しの剣と呼ばれるものの所在地を守っていた」
「違うのか」
「名も、何をする剣かも、家には残っていなかった。神が残した剣であり、開く条件を満たさない者へ渡してはならない。それだけだ」
「では、なぜ先代を連れていった」
「私が、一族に神殺しの剣と伝わるものがあると話した」
グラウスはシアを見る。
「あの方は確かめたいと言った。だから、私が封印地へ案内した」
グラウスはそのまま続けた。
「封印を開くため、一族の者をもう一人連れていった」
「二人必要だった?」
ミレナが尋ねる。
「人数ではない。二つの独立した剣状精霊術が必要だった」
「同じ術を二本作っても駄目なのですか」
「開かない。それぞれ別に成立した二つの刃を、同時に示す必要がある」
グラウスはセトを見る。
「以前、お前が使った二刀なら一人で条件を満たせる」
グラウスは、魔剣との戦いで白刃と黒刃を見ている。
「先代は、封印の中で何をした」
シアが尋ねた。
「剣へ触れた」
「使ったのか」
「いや。外側の刃へ、指先で触れただけだ」
その瞬間、先代イフリートは動きを止めた。
握ったわけではない。
力を流したわけでもない。
ただ触れたまま、長い間、何かを見ていた。
「その後、あの方が一つの名を口にした」
グラウスは、当時聞いた言葉を繰り返す。
「神剣・創界」
シアの中で、埋もれていた何かが揺れた。
「創界」
初めて聞いたはずなのに、知らない言葉には思えなかった。
「それが正式な名ですか」
ミレナが尋ねる。
「私の一族に伝わっていた名ではない」
グラウスが答える。
「あの方が、剣へ触れた直後に口にした」
「先代は、前から知っていたのか」
シアが尋ねる。
「違うと言っていた」
「では、どこから」
「剣に残っていたものが流れ込んだ」
グラウスは、当時の先代イフリートの説明を思い返す。
「自分の記憶でも、イフリートとして受け継いだ知識でもない。剣の中へ残っていた何かを、触れたことで受け取ったのだと」
「創造神の残滓」
ネアが言った。
「おそらくな」
「先代は、名前以外に何を知った」
セトが尋ねる。
「すべてが混ざったものへ境界を作り、再び分ける剣だと言った」
「それだけ?」
シアが聞く。
「あの方自身にも、完全には分からなかった。残っていた知識が朽ちていたらしい」
先代イフリートが創界から受け取った残滓。
それは先代自身の記憶ではない。
火の精霊王という役割に、元から含まれていた知識でもない。
一度だけ外から入り、先代の中へ欠けたまま残ったものだった。
「それが、今代のシアへも残った」
ネアが言う。
「先代が創界へ触れた経験そのものではなく、そこで受け取った知識の一部だけが、さらに欠けた形で継承されたのでしょう」
「だから、場所も名前も分からなかったのか」
「ええ。過去の精霊王が外から受け取った残滓の、そのまた断片です」
◆ 守る理由
「創界は、まだ封印地にあるのか」
セトが尋ねた。
「ああ」
「場所を教えろ」
グラウスは、すぐには答えなかった。
「創界は、私の一族が守ってきた」
「眠りの王に世界ごと呑まれても、隠し続けるのか」
「眠りの王」
グラウスがその言葉を繰り返す。
「精霊王たちが消えている原因か」
「ああ。取り込まれた精霊王は、役割も人格も分けられなくなっている」
「だから創界を使う」
「使えるかは分からない」
セトは言い直した。
「それでも、ほかに方法がない」
グラウスはシアを見る。
次にネア、ミレナを見る。
「三人か」
「創界には三人分の精霊王級の存在が必要らしい」
グラウスは三人を順に見た。
「場所を教えてください」
ミレナが言う。
グラウスはミレナを見る。
「お前は風の精霊王か」
「人間のミレナです。風の精霊王の役割も、私の中にあります」
「そこの男へ、剣として身を預けたのか」
「はい。私が選びました」
グラウスの視線が、セトへ戻る。
「三人目までそろえたか」
「まだ、創界が俺たちを受け入れるかは分からない」
「神剣は面倒だ」
過去と同じ言葉だった。
「力を持っていながら、最後には使い手を選ぶ」
「だから魔剣を選んだのか」
「魔剣には、すでに力が入っていた」
グラウスの声に迷いはない。
「持ち出せば使える。奪えば増える。意思を持つ者に拒まれることもない。神剣より、ずっと分かりやすい」
反省ではなかった。
自分が選んだ理由を、今も同じ理屈で説明しているだけだった。
「私は、お前たちを助けたいわけではない」
「ああ」
「罪を償うためでもない」
「ああ」
「創界は、私の一族が守ってきた。使う者を選ぶのは神剣であり、守り手ではない」
グラウスは椅子の背へ身体を預けた。
「私がここで場所を隠し続け、眠りの王に世界ごと呑まれれば、守ったことにはならない」
シアがグラウスを見る。
「先代のためか」
「違う」
返事は早かった。
「あの方を連れていったのは私だ。あの方から創界の名を聞いた。それと、今場所を教える理由は別だ」
そこに謝罪も、悔いもなかった。
先代を殺した事実も変わらない。
グラウスは改心したのではない。
ただ、守り手として受け継いだ役目を、自分のものとして扱っていた。
「場所を言う」
兵の一人が、記録用の紙を机へ置いた。
グラウスは腕を使えないため、地図へ印を付けられない。
代わりに、街道、川、岩山、崩れた石橋の順に道を説明した。
セトがその言葉を地図へ落としていく。
「入口は見えない。二つの刃を出せば、初めて継ぎ目が現れる」
「中に罠は」
「ない。鍵を持たない者には、ただの岩壁だ」
「創界を持ち出せるのか」
「神剣が拒まなければな」
※第29話「創界の守り手」は全八回です。
続きます。
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