(二)残った断片
◆ 残った断片
ネアの周囲へ、銀青色の細い線が現れた。
線はシアの身体へ入らず、赤橙色の原光の外側へ何重にも重なる。
「神殺しの剣という名前を、強く追わないでください」
「名前を追わないで、どうやって探す」
「名前は入口です。入口を無理に広げれば、その周囲にあるものまで一度に崩れます」
「面倒だ」
「ですから、わたしがいます」
シアは目を閉じた。
神殺しの剣。
言葉だけが浮かぶ。
その奥に、暗い場所があった。
今代のシアは知らない場所だった。
「何が見えますか」
「暗い」
「屋内ですか」
「分からない。石がある」
「剣は?」
「あると思う」
「見えていますか」
「見えない。でも、そこにある」
暗闇の中へ、人の姿が浮かぶ。
一人ではない。
同じ場所へ立っているわけでもない。
服も、年齢も、時代も違う。
それでも全員が、同じものを守っていた。
人々の手に、剣が生まれる。
鉄ではない。
原光が剣の形へ集まっている。
「剣状精霊術の使い手」
シアが言った。
「剣状精霊術の使い手が、神殺しの剣を守っている」
「現在のことですか。過去ですか」
「分からない。何人もいる」
「ほかには?」
暗い場所に、赤橙色の光が現れる。
炎ではない。
人の姿を取った、火の精霊王の原光だった。
「火がいる」
「誰か分かりますか」
「顔は見えない。でも、わたしじゃない」
赤橙色の光の近くに、一人の人間がいる。
その人間が火の精霊王を連れて、暗い場所へ入っていく。
「誰かが、火を連れていった」
シアの原光が急に強く揺れた。
ネアは銀青色の線を閉じる。
「そこまでです」
「まだある」
「今は追いません」
「場所が見えるかもしれない」
「断片を壊せば、二度と見えなくなります」
シアは目を開いた。
しばらく不満そうにネアを見たが、それ以上は続けなかった。
「火なら、先代かもしれない」
「可能性はあります」
「先代が、剣状精霊術の使い手に連れていかれた」
「今分かったのは、過去の火の精霊王らしき存在が、その場所へ入ったことまでです」
ネアは慎重に言い直した。
「そこへ、現在のシアが知っている人物を当てはめるのは後にしましょう」
「でも、ほかのイフリートかもしれない」
「ええ」
セトは、シアが口にしたもう一つの情報を考えていた。
「俺は知らない」
シアがセトを見る。
「セトの一族ではないのか」
「神殺しの剣を守っていたなんて話は、一族には残っていない」
「では、別の剣状精霊術の一族でしょうか」
ミレナが尋ねた。
セトの一族とは別に、剣状精霊術を代々受け継いできた一族がある。
遠い過去に同じ一族から分かれ、別のものを受け継いだ家系。
「グラウスだ」
セトが言った。
シアの表情が変わる。
「あいつも、剣状精霊術の使い手だった」
◆ 神剣を知る男
「グラウスの一族は、セトの一族から分かれた家系でしたね」
ネアが言う。
「ああ。俺たちの家系に伝わっていなくても、あいつの方へ残った可能性はある」
「魔剣の場所も、グラウスさんの一族へ伝わっていたんですよね」
ミレナが尋ねる。
「ああ」
グラウスが持ち出した魔剣も、過去のイフリートが精霊剣のまま死亡して残ったものだった。
セトの一族が剣状精霊術と剣技を受け継いだ一方で、分かれた家系には危険な剣の所在地が残された可能性がある。
そしてグラウスは、以前に神剣について口にしていた。
魔剣を手にした男の声が、セトの中へ戻る。
「やはり魔剣はいい」
「神剣なんかよりも、ずっと分かりやすい」
「神剣は面倒だ。力を持っていながら、使い手を選ぶ」
その言葉に、セトは尋ねた。
「神剣とは何だ」
セトはその場で問い返している。
それでも当時は、その言葉が今探している神殺しの剣へつながるとは考えなかった。
だが、今なら分かる。
グラウスは、神剣という分類を知っていただけではない。
力を持ちながら、使い手を選ぶものだと具体的に知っていた。
「グラウスは神剣を見たことがあるかもしれない」
セトが言う。
「あるいは、見た者から直接聞いています」
ネアが続けた。
シアは、自分の中へ残った赤橙色の気配を確かめるように胸へ手を置く。
「先代か」
「聞けば分かる」
セトは報告書を閉じた。
「グラウスに会いに行く」
※第29話「創界の守り手」は全八回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




