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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第28話 風の精霊剣

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(四)水の兆し

◆ 水の兆し


 訓練を始めて四日目の朝、水路の流れが再び逆になった。

 今度は村へ向かっていない。

 村の北側を回り、前回戦った草地へ集まっている。


「ヴァルナが自分から水を集めている?」


 ハルヴェンが尋ねる。


「一部だけです」


 ネアは水路の前へ銀青色の線を伸ばした。


「残りは川と地面へ広がっています。人の形を作ろうとしているようですが、一つへ戻りきれていません」

「前回の攻撃で弱っているのか」


 リグが言う。


「可能性はあります」

「今なら動けなくできるかもしれない」

「同時に、村へ流れ込む前に対処できる機会でもあります」


 ハルヴェンは村の北を見た。


「基本は前回と同じです。俺とリグで流れを止める。シアとネアは、村へ抜ける水を戻してください」

「セトは残る」


 シアが言った。


「歩ける」

「歩けるだけだ」

「剣なら振れる」

「昨日、壁がないと立てなかった」

「今日は立てる」

「試すな」


 ネアが二人の間へ入る。


「セトは草地の外で待機してください。前へ出るかは、状態と必要性を見て決めます」

「ミレナは?」


 ハルヴェンが尋ねた。

 全員の視線がミレナへ集まりかける。

 セトが先に答えた。


「決めなくていい」

「まだ何も聞いていません」


 ミレナが言う。


「聞かれてからだと遅い」

「使わせる前提ではありません」


 ハルヴェンは落ち着いて答えた。


「ヴァルナの位置を風で確認できるかを聞こうとしました」

「それならできます」

「人間のままで?」

「近くまでなら」


 ミレナは北から来る風へ意識を向ける。


「草地の西側。前回より水の量は少ないです。でも、地面の下へ広く残っています」

「それだけで十分です」


 誰も、精霊王になれとは言わなかった。


◆ 決めていない力


 草地へ向かう前、ミレナはネアを呼び止めた。


「精霊剣になる時は、どうするんですか」


 ネアは足を止める。


「なると決めたのですか」

「決めていません」

「では、今聞く必要はありません」

「知らないままでは、選べません」


 ネアはミレナの顔を見た。

 罪悪感だけで急いでいる様子はない。

 それでも、迷いはある。


「精霊剣は、術式を覚えて変わるものではありません」

「シアさんとネアさんは、どうやって?」

「わたしは、自分からセトへ身を預けると決めました」

「決めた後は?」

「名前を呼ばれました」

「名前」

「役割名ではありません」


 シアが横から口を挟む。


「わたしの時もそうだった」

「シアさんと呼ばれた?」

「ああ」

「それだけですか」

「たぶんそれだけだ」

「たぶん?」

「精霊剣になったのは一回目だったから、比べられない」

「今は何度もなっていますよね」

「今は、なると決めればなれる」


 ネアが説明を引き取る。


「重要なのは、名前そのものを合言葉にすることではありません。役割ではなく、その個人が自分を預け、相手もその個人を受け取ることです」

「セトさんが、私をミレナとして呼ぶ」

「ええ」

「それで剣にならなかったら?」

「あなたが預けると決めていないか、セトが受け取れる状態ではないか。ほかにも理由はあるかもしれません」

「分からないんですね」

「初めての組み合わせですから」


 ミレナはうなずいた。


「聞いただけです」

「ええ。決めたとは受け取りません」


◆ 再戦


 ヴァルナは草地の中央で人の形を作りかけていた。

 深い藍青色から青緑色へ変わる髪。白と深い藍色の衣装。淡い青緑色の瞳。

 姿は前回と同じだが、身体の一部が地面へ流れたまま戻っていない。

 右腕の輪郭は薄く、足元からは何本もの水が離れた方向へ伸びている。

 穏やかな顔には、やはり怒りも狂気も見えなかった。

 ただ、自分が一人であることを保てていない。


「ヴァルナ」


 ネアが呼ぶ。

 反応はない。


「こちらの言葉が分かりますか」


 淡い瞳がわずかに動いた。

 返事の代わりに、地面の水が持ち上がる。


「来るぞ」


 リグが紫白色の光へ変わる。

 ハルヴェンが精霊剣・轟雷を受け取り、前へ出た。


「万雷」


 草地へ広がる水へ、無数の雷が落ちる。

 ヴァルナは人型を崩し、雷が届く前に流れを切り離した。

 それでも前回より遅い。

 何本かの水が雷に捕まり、動きを止める。


「弱っています」


 ハルヴェンが言う。


『だが、まだ多い』


 水は村とは逆方向へ逃げた後、大きく回り込む。

 土の下を通り、別の場所から村へ向きを変えた。


「右側」


 ミレナが叫ぶ。

 シアの炎が、地面から出た水を蒸気へ変える。

 ネアが残りの流れを外へ曲げる。

 一度は止まった。

 だが、ヴァルナの身体からさらに水が分かれる。

 薄い膜となり、草の間へ広がった。


「前回と同じです」


 ハルヴェンが轟雷を構え直す。


「量は少なくても、広がり方は変わりません」



※第28話「風の精霊剣」は全九回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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