(七)力を欲しいわけではない
◆ 力を欲しいわけではない
セトは、借りた家へ戻ると再び長椅子へ寝かされた。
ネアは傷を確認し、少なくとも今日中は起き上がらないよう言い渡した。
「明日は」
「今日中という言葉へ、明日ならよいという意味は含めていません」
「では、いつだ」
「状態を見て決めます」
「分かった」
シアがセトを見る。
「たぶん分かっていない」
「今は分かっている」
「それは信用できない」
リグとハルヴェンは、再び川と水路の見張りへ出た。
シアも、今度は自分が北側を見ると言って家を出る。
夕方になり、村へ戻った者たちの安全が確認される。
ヴァルナは近くへ戻っていない。
それでも警戒を解くことはできなかった。
ミレナは、入口近くで外を見ていたネアへ近づく。
「話があります」
「はい」
「風の精霊王になる方法を、教えてください」
ネアはすぐには答えなかった。
「今日の責任を取るためですか」
「それもあります」
「それだけなら、教えられません」
「分かっています」
ミレナは自分の胸元へ手を置いた。
「風の力が欲しいわけではありません」
「ええ」
「使った後に失うなら、それでいいという考えも変わっていません」
「ええ」
「でも、今は私の中にあります。いらないと言っても、なくなりません。怖くなって逃げても、勝手に私を運びました」
窓の外で、弱い風が動く。
「今日も、私が使おうとした途中から、どこまでが自分の判断か分からなくなりました」
「それでも続けたいのですか」
「続けたいのではありません」
ミレナは首を横へ振った。
「自分で始めて、自分で止められるようになりたいです」
「精霊王になることを?」
「はい」
「神殺しの剣へ入るために?」
「まだ、そこまでは決めていません」
ミレナははっきり答えた。
「セトさんへ身を預けることも、剣になることも、今はまだ分かりません」
「それで構いません」
「でも、選ぶ前に、選べる状態にはなりたいです」
ネアの銀青色の瞳が、ミレナの中に重なる二つの流れを見る。
「初めて分けた時より、風の側が近くなっています。訓練をすれば、また記憶と知識が混ざる可能性があります」
「怖いです」
「自分を見失う可能性もあります」
「それも怖いです」
「では、なぜ」
ミレナは長椅子へ横になっているセトを見た。
眠ってはいない。
シアと言い合う声がなくなったため、目を閉じて休んでいる。
「昨日、私は自分が誰なのか分からなくなりました」
ミレナは声を落とした。
「風の流れだけを見れば、どこにでも私の痕跡があった。それでも、セトさんは私を見つけました」
「ええ」
「今日も、私が風へ引かれかけた時、名前を呼びました」
ネアは何も言わず、続きを待つ。
「私がまた分からなくなっても、あの人なら、風の精霊王ではなく私を見つけるかもしれないと思いました」
「セトがいることを、自分を保つ条件にするのですか」
「全部を任せるつもりはありません」
ミレナはすぐに答えた。
「自分で戻れるようになりたいです。でも、自分だけでは戻れない時に、見つけてくれる人がいると思えるなら、前より少しだけ怖くありません」
ネアは長くミレナを見た。
「分かりました」
「教えてくれますか」
「まず、人間のあなたと風の役割を、わたしが外から分けるのではなく、あなた自身が見分けるところから始めます」
「はい」
「今日は行いません」
「今からでは?」
「あなたも眠っていません」
ネアは静かに言った。
「自分を失わない訓練を、疲れて判断が鈍っている時に始めるつもりはありません」
ミレナは少しだけ迷い、うなずいた。
「明日から、お願いします」
「状態を確認してからです」
「セトさんへ言ったことと同じですね」
「同じです」
窓の外を通った風が、今度はどこへも逃げず、その場で静かに止まった。
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