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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第27話 狂った水の精霊王

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(六)足りない一本

◆ 足りない一本


 ヴァルナの気配が遠ざかると、シアはすぐに人型へ戻った。

 剣が消えた手から力が抜ける。

 セトはその場へ倒れかけた。

 シアとネアが左右から支える。


「一度と言った」


 シアが言う。


「一度だった」

「二回目の一度だ」

「今回は一度だ」

「同じ日なら同じだ」


 セトは言い返さなかった。

 息をするたび、脇腹が痛む。

 右脚は完全に力を失っていた。


「昨日より悪くしています」


 ネアが傷の周囲を確認する。


「治っていなかったところへ、同じ方向から力を受けました」

「村へは入らなかった」

「結果の話をしているのではありません」

「でも、入らなかった」


 ミレナが言った。

 誰もすぐには答えなかった。

 草地には、蒸気となった水が霧のように残っている。

 雷で弾かれた水滴も、土と草へ付着していた。

 ヴァルナは退いた。

 だが、昨日と同じく一時的に離れただけだった。


「何が足りない」


 リグが人型へ戻り、濡れた草地を見る。


「雷は通る。火でも蒸発する。月なら術としての形を崩せる」

「どれも、一か所へあるなら効きます」


 ハルヴェンが答える。


「分かれた後のすべてへ届かない」

「火力を上げても同じです」


 ネアが続けた。


「シアが広範囲をすべて焼けば、村と畑も巻き込みます。わたしが広い範囲を空白にしようとすれば、ヴァルナより先に周囲の原光が失われます。轟雷も、接触していない一滴まで同時には通せません」

「分かれる前に止める」


 シアが言う。


「昨日から、すでに分かれています」

「なら、戻す」


 その言葉に、ミレナが顔を上げた。


「一つに」


 ネアがミレナを見る。


「ええ。散った水を、攻撃できる一か所へ束ねる力が必要です」


 ミレナは、自分の両手を見る。

 先ほど、少しだけできた。

 別々の方向へ流れる水へ風を当て、一つの場所へ向けた。

 途中で制御を失い、ヴァルナの反撃を招いた。

 それでも、方向は間違っていなかった。


「風なら、できるのか」


 セトが尋ねた。


「性質としては可能です」


 ネアが答える。


「ですが、今のミレナに使わせられる状態ではありません」

「ああ」


 セトは、草地に残る水を見た。


「集める前に、ミレナが止まれなくなった」

「ええ。風の扱いだけではありません。精霊王の側へ引かれず、人間として自分を保つ必要があります」

「なら、今は使えない」


 セトはそこで話を切った。


「別の方法を探す」


 ミレナが顔を上げる。


「でも、風が必要なんですよね」

「必要なのは、水を集める方法だ」


 セトはミレナを見た。


「それをミレナにやらせると決まったわけじゃない」


 ミレナは何も答えなかった。

 自分の中に、必要とされる性質がある。

 それでも、誰もその場で答えを求めなかった。


◆ 逃げた時とは違う


 村へ戻る途中、セトはハルヴェンとリグに運ばれた。

 今度は途中まで歩こうともせず、二人が組んだ腕へ身体を預ける。


「さすがに学びましたか」


 ハルヴェンが尋ねる。


「脚が動かない」

「理由はどちらでも構いません」


 シアはセトのすぐ横を歩いていた。


「次は剣にならない」

「必要なら頼む」

「頼まれてもならない」

「その時に決める」

「わたしが決めることだ」

「ああ」


 セトが素直に認めると、シアは少しだけ言葉に詰まった。


「なら、今決めた。ならない」

「分かった」

「本当に?」

「今は分かっている」


 昨日と同じ答えに、リグが小さく笑った。

 ミレナは少し離れて歩いていた。

 風を使った時のことを、何度も思い返している。

 水の位置が分かった。どこへ流せば集まるかも分かった。

 だが、流れが増えるほど、意識が風の方へ引かれた。

 自分が風を動かしているのか、風の知識に身体を動かされているのか、途中から分からなくなった。

 それでも、昨夜とは違うことが一つある。

 名前を聞かれた時、すぐにミレナだと答えられた。

 セトの声が届いたからだった。

 水流が自分へ向いた時も、セトは迷わず前へ入った。

 風の精霊王を守ったのではない。

 三人目の力を失わないためでもない。

 昨日、風の中から見つけたミレナを、今日も守った。

 そう考えると、混ざっていた記憶のすべてが分かれるわけではない。

 ただ、今ここを歩いている自分が誰なのかだけは、昨日より少し分かる気がした。



※第27話「狂った水の精霊王」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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