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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第27話 狂った水の精霊王

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(五)風で集める

◆ 風で集める


「私が戻します」


 ミレナの声がした。

 草地の端に立ち、両手を水へ向けている。


「やめろ」


 セトが言う。


「広がったものを、中央へ戻せばいいんですよね」

「今は使うな」

「分かります」


 ミレナの周囲で風が動いた。


「どこへ流せば、一つになるか分かります」


 その知識が、自分のものなのかは分からない。

 それでも、今は目の前の水の流れと重なって見えた。

 右へ逃げる水。地面の下へ潜る水。霧から水滴へ戻る水。

 それぞれへ、別の風を当てる。

 強く押すのではない。進む方向だけを少しずつ変える。

 草地の外へ広がっていた水が、ゆっくり中央へ曲がり始めた。


『できています』


 絶光となったネアが言う。

 セトは答えなかった。

 ミレナの目は、水ではない遠い場所を見ている。

 髪と外套が、別々の方向から吹く風に持ち上げられていた。


「ミレナ」

「聞こえています」

「名前は」

「ミレナです」


 返事は早い。

 だが、風の流れは増え続けていた。

 中央へ曲げた水が一つへ集まる前に、別の水がその外側へ逃げる。

 ミレナはさらに風を増やす。


「全部、道が違う」

「もう止めろ」

「あと少しです」

「ミレナ」

「今度は、逃がしません」


 その言葉へ反応したように、集まりかけた水が逆へ動いた。

 ヴァルナの人型が、ミレナの正面へ立ち上がる。

 穏やかな顔のまま、片手を向けた。

 集められていた水が、一本の細い流れへ変わる。

 狙いはミレナだった。


◆ 受ける剣


「伏せろ!」


 ミレナは動けなかった。

 自分が集めた風が周囲を巡り、どちらへ避ければよいのか分からない。

 セトは絶光を前へ出した。


『正面だけではありません』


 ネアの声と同時に、水流が三つへ分かれる。

 中央。右。左。

 セトは中央を絶光で受ける。

 原光を失った水が崩れ、剣の左右へ落ちた。

 右の流れを返す。

 左へ剣を回そうとした時、右脚が動かなかった。

 水流がミレナへ迫る。

 セトは身体ごと間へ入った。

 絶光を左へ置く。

 刃へ触れた部分の術は消えた。

 それでも、水の質量は残っている。

 勢いを失いきらない水が、剣とセトの身体へぶつかった。

 脇腹の傷へ、もう一度強い衝撃が入る。

 息が止まった。

 絶光の切っ先が地面へ落ちる。


「セトさん!」

『離れてください!』


 ネアが人型へ戻る。

 セトの身体が支えを失い、片膝をついた。

 ミレナの風も乱れる。

 中央へ集まりかけていた水が、一斉に散った。

 ヴァルナは、再び何十本もの流れへ分かれる。

 水が村へ向きを変えた。


「シア」


 セトが呼ぶ。


「だめだ」


 シアはすぐに拒んだ。


「一度だけだ」

「さっきも言った」

「道を作るだけでいい」

「戻れなくなる」

「戻すのは、お前だ」


 シアはセトをにらんだ。

 水は待たない。

 ハルヴェンとリグが前へ出るが、広がった流れのすべては止められない。


「本当に一度だけだ」


 シアの身体が赤橙色の光へ変わった。

 再び極炎がセトの手へ収まる。

 セトは立ち上がらなかった。

 片膝をついたまま、剣を地面へ近づける。


『前へ出す』

「ああ」


 シアが炎を細く絞る。

 セトは極炎を横へ振った。

 草地を焼き払う炎ではない。

 村へ向かう水の前だけを、長い赤白の線が走った。

 先頭の水が一斉に蒸気へ変わる。

 残った流れが、熱を避けて左右へ分かれた。

 村へ直進する道が、一時的に消える。


「今です!」


 ハルヴェンが叫ぶ。


「万雷」


 左右へ分かれた水へ、紫白色の雷が落ちた。

 ネアも銀青色の線で、抜けようとする流れを外へ曲げる。

 水は止まりきらない。

 それでも、村とは反対側へ退き始めた。

 ヴァルナの人型が遠くで一度だけ形を作り、すぐに崩れる。

 細い流れは草地から川上へ引いていった。



※第27話「狂った水の精霊王」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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