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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第27話 狂った水の精霊王

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(四)極炎

◆ 極炎


 二人が草地へ着いた時、地面の半分近くが濡れていた。

 ヴァルナは無数の水流へ分かれ、人の形をほとんど残していない。

 シア、ネア、ハルヴェンが三方向から流れを押し戻している。

 押し戻された水は別の方向へ逃げ、また村を目指す。


「なぜ来た」


 シアが叫ぶ。


「止めるためだ」

「動けないだろう」

「今はな」


 セトはミレナの肩から腕を外した。


「シア」


 名前を呼ばれたシアは、すぐに意味を理解した。


「壊れたら戻すぞ」

「ああ」

「絶対だぞ」

「ああ」


 シアの身体が赤橙色の光へ変わる。

 火が一振りの剣へ集まり、セトの手へ収まった。

 精霊剣・極炎。

 剣を握った瞬間、熱い力がセトの身体を巡った。

 右脚へ力が戻る。

 傷が治ったわけではない。

 極炎の身体強化によって、痛みと損傷を抱えたまま動かしているだけだ。


『短く終わらせる』


 剣からシアの声が響く。


「中央へ寄せられるか」


 セトがネアへ尋ねる。


「数秒なら」


 ネアは銀青色の線を一斉に動かした。

 村へ向かっていた水が、左右から中央へ押し戻される。

 ハルヴェンも轟雷で外側を打ち、散った流れを内側へ向けた。

 すべてではない。

 それでも、草地の中央へ大きな水塊ができる。

 ヴァルナの上半身が、その中から形を作った。

 セトは地面を蹴る。

 炎の加速で、一気に距離を詰めた。


「極炎」


 シアと同時に力を合わせる。

 赤白い炎が、水塊の中心を貫いた。

 水が爆発するように蒸気へ変わる。

 草地を白い霧が覆った。

 熱風が村とは反対側へ抜ける。

 中央へ集められた水の大半が消えたように見えた。

 だが、霧の外側で細い水が動いている。

 ネアが集めきれなかった流れだ。

 蒸気も消滅したわけではない。

 冷えた端から細かな水滴となり、地面へ戻り始める。


『一部しか焼けていない』


 シアが言った。


「分かっている」


 極炎の炎をさらに広げれば、村の手前まで焼くことになる。

 セトは剣を下げた。

 身体強化が切れる前から、脇腹の痛みが強くなっている。


◆ 絶光


 白い霧の中から、細い水流が飛び出した。

 一本ではない。

 蒸発を免れた水が、霧へ紛れて四方からセトへ向かう。


「下がれ!」


 ハルヴェンが叫ぶ。

 セトは極炎を手放した。

 赤橙色の剣がほどけ、シアが人型へ戻る。

 着地したシアがセトの腕をつかむ。


「もう動くな」

「まだ来る」


 ネアが二人の前へ出た。


「わたしが止めます」

「範囲が広い」

「分かっています」


 銀青色の線が、水流を曲げる。

 正面の二本は外れた。

 地面を這う三本が、その下を抜ける。

 上から落ちる水が、さらに分かれる。

 ネア一人では、すべての流れへ同時に対応できない。

 セトが手を伸ばした。


「ネア」

「その身体では」

「村へ通すよりいい」


 ネアは一瞬だけ迷った。

 水流がシアの背後へ回る。


「一度だけです」


 ネアの身体が、銀青色と黒の光へ変わった。

 光が細身の剣へ集まり、セトの手へ収まる。

 精霊剣・絶光。

 極炎ほど強くはないが、身体へ力が通る。

 倒れかけた右脚を支えられる程度には動けた。


『右から三本。上から二本。地面の下にもあります』


 ネアの声が、剣を通して伝わる。

 セトは絶光を右へ置く。

 触れた水流から淡い青緑色の原光が消えた。

 術として保たれていた形が崩れ、水が落ちる。

 その水を、剣の腹で外へそらす。

 上から落ちる二本を返し、地面から出た流れを切る。

 だが、絶光が置かれていない場所では、水が動き続けている。

 原光を消せる範囲は、剣の周囲と、ネアが集中した場所だけだ。

 草地全体へ薄く広がった水を、一度に空白にはできない。


『後方へ抜けます』

「ハルヴェン!」

「見えています」


 轟雷の雷が、抜けた水へ落ちる。

 一本が止まる。

 その横を、さらに細い三本が通り抜けた。

 セトは振り向こうとした。

 脇腹に痛みが走り、動きが遅れる。

 絶光の身体強化では、損傷を押し切れない。


『これ以上は無理です』

「あと少し」

『範囲は狭まりません。続けても、あなたが先に動けなくなります』


 ネアの判断は変わらなかった。



※第27話「狂った水の精霊王」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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