(四)極炎
◆ 極炎
二人が草地へ着いた時、地面の半分近くが濡れていた。
ヴァルナは無数の水流へ分かれ、人の形をほとんど残していない。
シア、ネア、ハルヴェンが三方向から流れを押し戻している。
押し戻された水は別の方向へ逃げ、また村を目指す。
「なぜ来た」
シアが叫ぶ。
「止めるためだ」
「動けないだろう」
「今はな」
セトはミレナの肩から腕を外した。
「シア」
名前を呼ばれたシアは、すぐに意味を理解した。
「壊れたら戻すぞ」
「ああ」
「絶対だぞ」
「ああ」
シアの身体が赤橙色の光へ変わる。
火が一振りの剣へ集まり、セトの手へ収まった。
精霊剣・極炎。
剣を握った瞬間、熱い力がセトの身体を巡った。
右脚へ力が戻る。
傷が治ったわけではない。
極炎の身体強化によって、痛みと損傷を抱えたまま動かしているだけだ。
『短く終わらせる』
剣からシアの声が響く。
「中央へ寄せられるか」
セトがネアへ尋ねる。
「数秒なら」
ネアは銀青色の線を一斉に動かした。
村へ向かっていた水が、左右から中央へ押し戻される。
ハルヴェンも轟雷で外側を打ち、散った流れを内側へ向けた。
すべてではない。
それでも、草地の中央へ大きな水塊ができる。
ヴァルナの上半身が、その中から形を作った。
セトは地面を蹴る。
炎の加速で、一気に距離を詰めた。
「極炎」
シアと同時に力を合わせる。
赤白い炎が、水塊の中心を貫いた。
水が爆発するように蒸気へ変わる。
草地を白い霧が覆った。
熱風が村とは反対側へ抜ける。
中央へ集められた水の大半が消えたように見えた。
だが、霧の外側で細い水が動いている。
ネアが集めきれなかった流れだ。
蒸気も消滅したわけではない。
冷えた端から細かな水滴となり、地面へ戻り始める。
『一部しか焼けていない』
シアが言った。
「分かっている」
極炎の炎をさらに広げれば、村の手前まで焼くことになる。
セトは剣を下げた。
身体強化が切れる前から、脇腹の痛みが強くなっている。
◆ 絶光
白い霧の中から、細い水流が飛び出した。
一本ではない。
蒸発を免れた水が、霧へ紛れて四方からセトへ向かう。
「下がれ!」
ハルヴェンが叫ぶ。
セトは極炎を手放した。
赤橙色の剣がほどけ、シアが人型へ戻る。
着地したシアがセトの腕をつかむ。
「もう動くな」
「まだ来る」
ネアが二人の前へ出た。
「わたしが止めます」
「範囲が広い」
「分かっています」
銀青色の線が、水流を曲げる。
正面の二本は外れた。
地面を這う三本が、その下を抜ける。
上から落ちる水が、さらに分かれる。
ネア一人では、すべての流れへ同時に対応できない。
セトが手を伸ばした。
「ネア」
「その身体では」
「村へ通すよりいい」
ネアは一瞬だけ迷った。
水流がシアの背後へ回る。
「一度だけです」
ネアの身体が、銀青色と黒の光へ変わった。
光が細身の剣へ集まり、セトの手へ収まる。
精霊剣・絶光。
極炎ほど強くはないが、身体へ力が通る。
倒れかけた右脚を支えられる程度には動けた。
『右から三本。上から二本。地面の下にもあります』
ネアの声が、剣を通して伝わる。
セトは絶光を右へ置く。
触れた水流から淡い青緑色の原光が消えた。
術として保たれていた形が崩れ、水が落ちる。
その水を、剣の腹で外へそらす。
上から落ちる二本を返し、地面から出た流れを切る。
だが、絶光が置かれていない場所では、水が動き続けている。
原光を消せる範囲は、剣の周囲と、ネアが集中した場所だけだ。
草地全体へ薄く広がった水を、一度に空白にはできない。
『後方へ抜けます』
「ハルヴェン!」
「見えています」
轟雷の雷が、抜けた水へ落ちる。
一本が止まる。
その横を、さらに細い三本が通り抜けた。
セトは振り向こうとした。
脇腹に痛みが走り、動きが遅れる。
絶光の身体強化では、損傷を押し切れない。
『これ以上は無理です』
「あと少し」
『範囲は狭まりません。続けても、あなたが先に動けなくなります』
ネアの判断は変わらなかった。
※第27話「狂った水の精霊王」は全七回です。
続きます。
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