(一)援護の役目
◆ 参加受付
大会の開催地へ入った二人は、そのまま町の中央へ向かった。
広場の先に、円形の闘技場が見える。
入口には長い列ができていた。
武器を背負った者。杖を持つ者。鎧を着込んだ者。
ほとんどが二人一組で並んでいる。
「全員、魔剣を狙っているのか」
シアが列を見渡した。
「賞金目当ての方が多いだろ」
「魔剣の方が強い」
「売れば賞金より高いかもしれないな」
「売るのか?」
「俺たちは調べるだけだ」
「欲しくなったら?」
「持ち主が決まる前から考えるな」
列は少しずつ進んだ。
受付の机へたどり着くと、係員が二人へ紙を差し出した。
「二人の名前を」
「セト」
「シアだ」
「使用する武器と精霊術は?」
「剣状精霊術」
「火」
シアの答えは短かった。
係員は紙へ書き込みながら、ちらりとシアを見る。
「火の精霊術だけですか?」
「ああ」
「使用する武器は?」
「ない」
「素手で参加するということですか?」
「火がある」
「それは精霊術ですね」
「だから、火を使う」
係員が困った顔でセトを見る。
「こいつは後ろから援護する。前で戦うのは俺だ」
「分かりました。武器なしの火属性精霊術士、と」
「火属性ではない」
シアが訂正する。
「火そのものだ」
「それでいいから」
セトが話を切った。
ここで火の精霊王だと名乗られても困る。
◆ 優勝賞品
受付を終えた参加者は、闘技場の中へ通された。
中央には石造りの舞台がある。
その周囲を、階段状の観客席が囲んでいた。
舞台の一方には、大会の運営者たちが並んでいる。
その後ろに、大きな木箱が置かれていた。
金属の金具で閉じられ、二人の兵士が左右を守っている。
「あれか」
シアが木箱を見た。
「たぶんな」
「見えない」
「優勝賞品をむき出しでは置かないだろ」
「近くへ行く」
「駄目だ」
「まだ何もしていない」
「今からするところだっただろ」
参加者が集まると、運営者の一人が舞台へ上がった。
大会は十六組による勝ち抜き戦。
勝利条件は、相手二人の降参、場外、または審判による戦闘不能の判定。
故意に命を奪った者は失格となる。
観客席への攻撃も禁止された。
「優勝した組には、賞金と、ここに収められた魔剣が与えられる!」
運営者が木箱を示した。
観客席から歓声が上がる。
「中に力はある」
シアが小声で言った。
「分かるのか」
「何かは入っている。だが、ここからではよく分からない」
「なら、勝って近くで見るしかないな」
「ああ」
シアが舞台へ向かおうとした。
「まだ俺たちの試合じゃない」
「先に勝っておく」
「順番を守れ」
◆ 後ろにいろ
組み合わせが発表され、二人の初戦は三試合目に決まった。
控え場所で待つ間、セトはもう一度シアへ役割を説明した。
「前に出るな」
「なぜだ」
「昨日も話しただろ」
「わたしが倒した方が早い」
「早すぎるんだよ」
「早いことは悪くない」
「相手を燃やしたら悪い」
「燃やさずに倒す」
「どうやって?」
シアは少し考えた。
「軽く殴る」
「お前の軽くは信用できない」
「では、どうする」
「後ろから小さい火を飛ばせ。相手の動きを止めるか、俺の白刃へ乗せる」
「それだけか」
「あとは俺が危ない時に助けろ」
「危なくなければ助けない?」
「必要な時だけでいい」
「援護は面倒だな」
「相手を全部倒すより考えることが多いからな」
シアは舞台で行われている試合を見た。
二人の精霊術士が、一人を左右から挟んでいる。
残る一人が後方から風を放ち、相手の退路を塞いだ。
「今のが援護か」
「ああ」
「風を当てれば倒せた」
「倒さずに、仲間が攻撃しやすい場所へ動かしたんだ」
「なぜ自分で倒さない」
「二人で戦うためだろ」
シアは納得していないようだった。
◆ 初戦
三試合目。
セトとシアは舞台へ上がった。
対戦相手は、大きな盾を持つ男と、杖を持つ女だった。
盾の男が前に立ち、杖の女が後ろへ下がる。
セトたちと同じように、前衛と後衛を分けているらしい。
「始め!」
審判の声と同時に、盾の男が走り出した。
セトは白刃を作る。
男は盾を正面に構え、そのまま押し込んできた。
白刃を盾へ当てる。
硬い音が響いた。
盾の表面には精霊力がまとわりついている。
ただの金属ではない。
白刃の切っ先が浅く食い込んだところで、男が盾を振った。
セトは横へ押し出される。
その隙に、後方の女が杖を向けた。
石の礫がいくつも浮かび、セトへ飛ぶ。
「シア!」
「ああ」
シアが指を動かした。
小さな火が一つ飛ぶ。
火は先頭の礫へ当たり、赤く弾けた。
一つだけだった。
残った礫がセトへ迫る。
「一つじゃ足りない!」
「小さくしろと言った」
「数を増やせ!」
「先に言え」
セトは白刃で礫を払い落とした。
その間にも、盾の男が距離を詰めてくる。
◆ 小さい火
シアの周囲へ、指先ほどの火が五つ現れた。
「それを相手に当てるなよ」
「何のために出した」
「礫を落とせ!」
再び石の礫が飛ぶ。
五つの火が、それぞれ一つずつ礫へ向かった。
空中でぶつかり、赤い火花と石片が散る。
今度はセトまで届かない。
「できるじゃないか」
「最初から倒した方が簡単だ」
盾の男が白刃を押し返す。
その後ろで、杖の女が次の術を作ろうとしていた。
「シア、あっちを止めろ」
「倒すのか」
「止めるだけだ!」
小さな火が、杖の女の足元へ飛んだ。
石床へ触れ、短く燃え上がる。
女は驚いて一歩下がった。
作りかけていた礫が崩れる。
その一瞬で十分だった。
セトは盾の側面へ回り込む。
白刃を短くし、盾と腕の間へ差し込んだ。
切る直前で刃を止める。
「動くな」
切っ先は、男の脇腹へ触れる寸前だった。
男が盾を下ろした。
「降参だ」
続いて杖の女も杖を下げる。
審判がセトたちの勝利を宣言した。
◆ 援護した
舞台を下りると、シアが言った。
「勝ったな」
「ああ」
「わたしが礫を全部落とした」
「最初は一つだけだったけどな」
「小さい火を出せと言われた」
「一つだけ出せとは言ってない」
「次から数も言え」
「状況を見て決めろ」
「面倒だな」
シアは少し考えてから続けた。
「杖の人間も倒さなかった」
「あれはよかった」
「火を足元へ置いただけだ」
「術を止められた。それで十分だ」
「弱い火にも意味があった?」
「ああ」
「倒していないのに?」
「俺が倒せるようにしてくれただろ」
シアは先ほどの舞台を振り返った。
「わたしが倒したのではない」
「だから援護なんだよ」
「勝ったのは二人?」
「そうだ」
シアはしばらく黙った。
完全には納得していないだろう。
それでも、弱い火に意味があることは少し理解したらしい。
※第6話「二人一組の大会」は全四回です。
続きます。
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