(三)失ってもいいもの
◆ 失ってもいいもの
「その神殺しの剣を使った後、私はどうなりますか」
ミレナが尋ねた。
誰もすぐには答えなかった。
「分からないんですね」
「ええ」
ネアが答える。
「剣そのものについて、わたしたちが知っていることは多くありません」
「中へ入った精霊王が戻れるかも分からないと、昨日言っていました」
「そのとおりです」
「戻れたとしても、風の力が残るかは?」
「保証できません」
ネアはミレナの中にある淡緑色の流れを見る。
「眠りの王を消すために、三人分の精霊王級の存在を入れて使う剣です。使用後、入った存在が元と同じ状態で戻る保証はありません」
「風の精霊王ではなくなるかもしれない」
「可能性はあります」
「人間の私だけが残る?」
「そうなる可能性もあります」
ミレナは、昨日より穏やかな顔でその言葉を聞いた。
「それなら、私は困りません」
シアがミレナを見る。
「力がなくなるぞ」
「最初から、自分の力だと思っていません」
「今は使える」
「使えなくていいです」
「空を飛べるかもしれない」
「飛びたいと思ったことはありません」
「速く動ける」
「急いで遠くへ行く用事もありません」
シアは少し考えた。
「便利だと思うが」
「シア」
ネアが止める。
「本人が必要としていないものを、便利だから持てとは言えません」
「わたしなら使う」
「あなたなら、です」
ミレナは二人を見て、わずかに口元を緩めた。
「風の力を失うのが怖くて断ることはありません」
その言葉だけは、はっきりしていた。
「むしろ、私と分けられるなら、その方がいいです」
◆ 選んだ理由
「シアさんとネアさんは、どうしてセトさんを選んだんですか」
ミレナが尋ねた。
「わたしは、セトがセトだからだ」
シアは迷わず答えた。
「それでは分かりません」
「名前を付けた」
「名前を付けてもらったから?」
「それだけではない」
シアは腕を組んだ。
自分には分かっていることを、相手へ伝わる順番に並べるのは得意ではない。
「セトは、わたしをイフリートとして使おうとしなかった」
「精霊王として扱わなかった?」
「精霊王だとは知っている。でも、それだけではない」
シアはセトを見る。
「わたしが選んだことを、セトが受け取った」
「セトさんが、選ばせたのではなく?」
「ああ」
ミレナはネアへ視線を移した。
「ネアさんも同じですか」
「同じではありません」
ネアは静かに答えた。
「わたしは、シアほど早くセトを信じてはいませんでした」
「今も全部を信じているわけではない」
シアが言う。
「それはお前が言うことではないだろう」
セトが止める。
「違うのか」
「否定はしないが」
「なら合っている」
ネアは二人を見てから続けた。
「相手が善良だから、自分を預けてよいとは限りません。自分の力を使えるからでもありません」
「では、何を見たんですか」
「わたしが嫌だと言えば止まるか。危険を理解していない時に、望んでいるからという理由だけで進めないか。わたしを役割ではなく、わたしとして扱うか」
ミレナは、先ほどセトが決断を求めなかったことを思い出した。
「それを確かめた?」
「ええ。今も確かめています」
「まだ?」
「長く生きる者が、自分の存在を預けるのです。確かめるのをやめる理由はありません」
リグが笑う。
「ネアらしいな」
「あなたは確かめなさすぎるのです」
「ハルヴェンは分かりやすい」
「褒められているのでしょうか」
ハルヴェンが尋ねる。
「褒めている」
「それなら受け取っておきます」
ミレナは四人の間にあるものを見た。
力の強さではない。
一緒に戦った時間と、互いが選んだ事実がある。
自分には、まだどちらもなかった。
「私には、今すぐ選べません」
「それでいい」
セトが答えた。
「今日確かめるのは、できるかどうかだけだ」
※第25話「分けられたミレナ」は全八回です。
続きます。
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