(二)人間だけを残す
◆ 人間だけを残す
「風の側だけを外へ出して、私はここに残れませんか」
ミレナが尋ねた。
「二人に分かれるということか」
セトが確認する。
「それができれば、一番分かりやすいと思います」
ネアは首を横へ振った。
「今見えている二つは、二人分の人格ではありません。身体も、名前も、これまで生きてきた自我も一つです」
「では、分けるというのは?」
「重なっている二つの形を一時的にずらし、どちらを前へ出すか変えることです」
「人間の私を残したまま、風の方を別に立たせるのではない」
「ええ」
「風の方を前へ出したら、人間の私はどうなりますか」
「消えません。奥へ下がるだけだと思います」
「思います?」
「同じ状態を、わたしは見たことがありません」
ネアの知識に方法はあっても、人間の血統へ役割を継承した風の精霊王を扱った経験はなかった。
知識が示すのは、境界の見方と、流れを分ける方法だけだ。
ミレナがどう感じるかまでは分からない。
「元へ戻せますか」
「戻せる範囲でしか分けません」
「必ず戻せる、ではないんですね」
「必ずと言い切って、深く分ける方が危険です」
ミレナは黙った。
草の上を、弱い風が通り過ぎる。
「やめてもいい」
セトが言った。
「調べないままでも、別の方法を探す」
「別の方法が見つかると思いますか」
「分からない」
「皆さんも、分からないことばかりですね」
「ああ」
セトは否定しなかった。
「だから、分からないまま無理に進めない」
ミレナはセトを見た後、ネアへ向き直った。
「戻せると思うところまでで、お願いします」
「分かりました」
◆ 神殺しの剣に必要なもの
「始める前に、もう一つ聞かせてください」
ミレナが言った。
「私を精霊王の姿にすることと、皆さんが探している剣に、どういう関係があるんですか」
昨日は、三人分の精霊王級の力が必要だとだけ聞いた。
自分が三人目として探されていたことも知った。
だが、具体的に何を求められているかまでは説明されていない。
「神殺しの剣は、三人分の精霊王級の存在を中へ入れる必要がある」
セトが答えた。
「力だけを注げばいいわけではないらしい」
「存在を入れる?」
「シアとネアが精霊剣になる時に近いと思う」
「剣になるんですか、私が」
「今すぐではない」
「でも、最後には?」
セトはミレナから目をそらさなかった。
「その可能性が高い」
ミレナの周囲で、風が一度揺れる。
「人間は、精霊剣にはなれません」
ネアが続けた。
「精霊剣は、精霊王自身が剣へ形を変え、人間へ身と力を預けるものです」
「なら、人間の私はできない」
「ええ。ですが、あなたの中には精霊王として存在できる形があります」
「今日、それを確かめる」
「そうです」
「確かめられたら、剣になれと言われる?」
「言わない」
セトが先に答えた。
「必要なのは事実だ。でも、確かめられたことと、ミレナが選ぶことは別だ」
「選ばなければ、神殺しの剣は使えないかもしれない」
「ああ」
「世界を止められないかもしれない」
「ああ」
「それでも?」
「それでも、俺が決めることじゃない」
リグが外側から口を挟む。
「精霊剣は、頼まれたから形だけなれるものではない」
ミレナがリグを見る。
「あなたも、自分でハルヴェンさんを選んだんですか」
「ああ」
「世界を守るために?」
「それだけなら、ほかの人間でもよかった」
リグは隣に立つハルヴェンへ目を向けた。
「俺が預けたのは、ハルヴェンだからだ」
ハルヴェンが少し困ったように笑う。
「本人に正面から言われると、返し方に困りますね」
「事実を言っただけだ」
※第25話「分けられたミレナ」は全八回です。
続きます。
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