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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第24話 風を継ぐ少女

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(六)風を継ぐ少女

◆ 風が止まらない


 村の広場には、いつの間にか風が吹き続けていた。

 強くはない。

 だが、一定の方向もなく、ミレナの呼吸に合わせて行き来している。


「止められますか」


 ミレナが尋ねた。


「わたしが?」


 ネアが聞き返す。


「この風をです」

「止めることはできます。しかし、あなたの力を外から押さえることになります」

「それでもいいです」

「今は止めない方がよいでしょう」

「なぜですか」

「風が動くことで、あなたの内側にたまる力を外へ逃がしています。無理に止めれば、別の形で現れる可能性があります」

「では、どうすれば」

「ゆっくり息をしてください」

「それだけ?」

「今は、それだけです」


 ミレナは戸惑いながら息を吸った。

 風が広がる。

 ゆっくり吐く。

 風が弱まった。

 もう一度繰り返す。

 乱れていた流れが、少しずつ一方向へ整っていく。


「私が動かしている」

「ええ」

「止めようとすると、止まる」

「ええ」


 風が静まる。

 残ったのは、ミレナの髪を揺らす程度の弱い流れだけだった。


◆ 受け継いだもの


「風の精霊王の名前は、アイオロスでしたね」


 ミレナが言った。


「役割の名前です」


 ネアが答える。


「人の名前とは違う?」

「精霊王は、役割名だけを持つ者も多くいます」

「あなたたちは?」

「わたしはセレーネという役割を持ち、ネアという個人名をもらいました」

「私はイフリート。シアはセトが付けた」


 シアが言う。


「リグも個人名だ」


 リグが続けた。

 ミレナは三人を見る。


「では、私の中にあるアイオロスは、誰かの名前ではない?」

「ええ。風の精霊王が担う役割を指します」

「その役割と知識が、私へ来た」

「そう見えます」

「私が望んだわけではないのに」


 ネアは否定しなかった。


「前の継承者も、選べなかった可能性があります」

「何代も?」

「おそらくは」

「そんなものを、ずっと誰も知らずに受け継いできたんですか」

「知っていた者がいた可能性はあります。ただ、現在まで明確な記録は残っていません」


◆ 今夜は帰る


 話を続けるほど、ミレナの顔には疲労が表れた。


「今日は、もう十分です」


 セトが言った。


「でも、まだ何も決まっていません」

「決めるための話は、明日以降にする」

「皆さんはどうするんですか」

「村の外で野営してもいい」

「それでは、村の人が余計に気にします」


 ミレナは周囲を見る。

 遠巻きに、何人かの村人がこちらの様子をうかがっている。


「宿として使える家があります。村長へ話します」

「いいのか」

「分かりません」


 ミレナは正直に答えた。


「でも、帰ってもらって、明日また突然来られる方が落ち着きません」

「それはそうですね」


 ハルヴェンが言った。


「ただし、家族へどこまで話すかは、あなたが決めてください」


 セトはミレナへ告げた。


「俺たちから勝手には話さない」

「村の人にも?」

「ああ」

「風のことを見られています」

「見たことと、その意味は別だ」


 ミレナはしばらく考え、うなずいた。


◆ 風を継ぐ少女


 ミレナが自宅へ戻る道を歩き始める。

 セトたちは、少し距離を空けてその後ろを進んだ。

 風は弱く、彼女の周囲だけを流れている。

 道端の草が、ミレナの歩みに合わせて順番に揺れた。

 本人は何度も振り返り、そのたびに草の動きを確かめていた。


「本当に、私について来ている」


 ミレナがつぶやく。


「今までも、そうだったのかもしれません」


 ネアが言った。


「気づかなかっただけ?」

「ええ」

「気づかなければ、今までどおりだったのに」


 誰も否定できなかった。

 知らなければ、ミレナは明日も普通に目を覚まし、風向きを言い当て、偶然だと思いながら暮らしていたかもしれない。

 だが、眠りの王は待ってくれない。

 彼女の中にある役割も、存在しないことにはできない。

 家の前へ着いたところで、ミレナは足を止めた。


「一つだけ、今答えてください」

「何だ」


 セトが尋ねる。


「私は、人間なんですよね」

「ああ」


 セトは迷わず答えた。


「それは変わらない」


 ミレナは安心したようには見えなかった。

 次の言葉が残っていることを、もう理解していた。

 ネアが静かに続ける。


「そして、あなたの中には、風の精霊王の役割と知識もあります」


 風が、ミレナの周囲で小さく渦を巻いた。


「二つとも本当なんですね」

「ええ」


 ミレナは家の扉へ手を掛けたまま、しばらく動かなかった。

 人間であることを失ったわけではない。

 だが、人間だけだと思っていた今日までの自分には、知らない風が重なっていた。


「少し、考えさせてください」

「ああ」


 ミレナが家の中へ入る。

 扉が閉じたあとも、家の周囲には弱い風が残り続けた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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