(五)三人目を探していた
◆ 分けて考える
「今は、分けて決めない方がいい」
セトが言った。
「なぜですか」
「まだ何も調べていないからだ」
「でも、私の中にいるんでしょう?」
「誰かが中に入っている、という形ではないと思います」
ネアが言う。
「役割と知識を受け継いでいますが、別の人格があなたを動かしているようには見えません」
「では、風を動かしたのも私?」
「ええ」
「アイオロスではなく?」
「あなたの意思に、風の役割が応じたのだと思います」
「それなら、私と精霊王を分けることはできないのでは?」
「現時点では分かりません」
ネアの返答に、ミレナは顔を上げた。
「分からないのに、私を探していたんですか」
「風の役割を受け継いだ人間がいることまでは分かっていました」
「その人が、何なのかは分からなかった?」
「ええ。近くで確認する必要がありました」
「確認して、どうするつもりですか」
ミレナの問いに、セトはすぐには答えなかった。
◆ 三人目を探していた
「世界で起きている異変を止めるために、三人分の精霊王級の力が必要です」
セトが答えた。
「シアとネアで二人。あと一人が足りない」
「それで私を?」
「ああ」
ミレナの顔から血の気が引いた。
風が彼女の周囲から外へ広がる。
「私に戦えと言うんですか」
「まだ、そこまで決めていない」
「でも、そのために探していたんでしょう」
「力が必要なのは事実だ」
「セト」
シアが横から口を挟む。
「言い方が遠い」
「どう言えばいい」
「力を貸してほしい。でも、まず何ができるか調べる」
ミレナがシアを見る。
「やはり、力を貸せという話ではありませんか」
「そうだ」
「シア」
ネアが止める。
「隠しても同じだ」
「隠すのではなく、順番の問題です」
「本人が聞いた」
「だからといって、答えだけを投げないでください」
シアは黙った。
「すまない」
セトが言った。
「必要だから来た。それは否定しない」
◆ 選ぶ前の話
「断ったら、どうするんですか」
ミレナが尋ねた。
「別の方法を探す」
「世界を止めるために必要なのに?」
「必要だから、無理に選ばせていいとは思っていない」
「選ぶ?」
「あなた自身が、どうするかを決めるという意味です」
「何を決めるんですか。私はまだ、自分が何なのかも分かっていません」
「だから、今すぐ答えを求めない」
「いつまで待てるんですか」
セトは答えに詰まった。
眠りの王は、今も精霊王を取り込み続けている。
時間があるとは言えない。
「長くは待てない」
それでも、嘘はつかなかった。
「ですが、今日ここで決めさせるつもりもありません」
ネアが続ける。
「まず、あなたの中で人間としての存在と、風の役割がどのような状態にあるのかを確かめます」
「確かめると、何が分かるんですか」
「何ができるか。何をすれば危険か。あなた自身へどのような影響があるか」
「危険がある?」
「ないとは言えません」
ミレナの周囲で、また風が揺れた。
◆ 今日までの自分
「私は、今日まで普通に生きてきました」
ミレナは自分へ言い聞かせるように言った。
「村で育って、働いて、家族と暮らしてきました」
「ああ」
「風が分かるのも、少し勘がいいだけだと思っていました」
「それも、あなたの経験です」
「でも、本当は精霊王の知識だったかもしれない」
「すべてがそうだとは決まっていません」
ネアが答える。
「何を考え、誰を大切にし、どのように生きてきたかまで、役割が決めているわけではありません」
「本当に?」
「少なくとも、あなたから別の人格は感じません」
「では、私は私のまま?」
「ええ」
ネアは一度うなずいた後、言葉を加えた。
「ただし、風の役割と知識が存在しないという意味ではありません」
「私であり、風の精霊王でもある?」
「今の段階で、そう言い切ることもできません」
「また分からないんですね」
「ええ」
ミレナは目を伏せた。
「分からないことばかりです」
「私たちもです」
ハルヴェンが言った。
「あなたにだけ答えを出させるつもりはありません」
※第24話「風を継ぐ少女」は全六回です。
続きます。
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