(四)人間であること
◆ 人間であること
「どういう意味ですか」
ミレナはセトへ尋ねた。
「人間なのに、精霊王でもあるなんて」
「あなたが人間であることは間違っていません」
セトが答える。
「人間として生まれ、人間として育ち、今まで生きてきた。それを否定するつもりはない」
「では、精霊王という話は何なんですか」
「過去の風の精霊王が、自分の役割と知識を大地へ残しました」
ネアが説明を引き継ぐ。
「それは、最も近しい存在へ受け継がれました。継承が何代も続き、現在はあなたへ集まっています」
「なぜ私に」
「あなたが、前の継承者に最も近しい存在だったのでしょう」
「血がつながっているから?」
「血縁だけで決まるものではありません。ただ、精霊王の性質を受け継いだ子孫は、近しい存在になりやすいのだと思います」
「思います?」
「過去の出来事を見たわけではありません」
ネアは断定しなかった。
「わたしも、方法についての知識を持っているだけです」
◆ 家族の話
ミレナはしばらく黙っていた。
「私の家族も、同じなんですか」
「薄い影響を持つ者は、この村に何人かいます」
ネアが答える。
「では、母や父も?」
「可能性はあります。ただし、風の役割と知識が最も強く集まっているのは、あなたです」
「兄弟は?」
「その方々を見ていないので、分かりません」
「私だけが精霊王?」
「今、精霊王として存在しているわけではありません」
「でも、さっきは風の精霊王の役割があると言いました」
「あります」
「精霊王ではないのに、精霊王の役割がある?」
「ええ」
「分かりません」
ミレナは額へ手を当てた。
周囲の風が不規則に揺れる。
髪が前へ流れた直後、今度は後ろへ引かれた。
「落ち着いてください」
ハルヴェンが言った。
「急に受け入れられる話ではないでしょう」
「受け入れる以前に、何を言われているのかも分かりません」
「それが普通だと思います」
「普通?」
ミレナは自嘲するように笑った。
「今、普通ではないと言われたばかりです」
◆ 名を知っている風
「一つ聞いていいか」
セトが言った。
「何でしょうか」
「アイオロスという名前を、本当に一度も聞いたことがない?」
「ありません」
「夢の中でも?」
「夢?」
「知らない場所や、知らない誰かの記憶を見ることは?」
ミレナは否定しようとして、動きを止めた。
「何かあるのか」
「昔から、同じ夢を見ることはあります」
「どのような夢ですか」
ネアが尋ねる。
「高いところから、知らない土地を見ています」
「飛んでいる?」
「飛んでいるというより、風の中にいるような……」
ミレナは言葉を探した。
「下に山や川があって、どこへでも行けると思うんです。でも、目が覚めると何も覚えていません」
「名前は出てきますか」
「いいえ」
「誰かと話す?」
「分かりません。声はある気がします。でも、言葉ではないような」
シアがネアを見る。
「知識か」
「可能性はあります」
「夢だと思っていたものが、精霊王の知識だった?」
ミレナの声が小さくなる。
「すべてではありません。普通の夢もあるでしょう」
「どこからが私で、どこからがその精霊王なんですか」
誰もすぐには答えられなかった。
※第24話「風を継ぐ少女」は全六回です。
続きます。
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