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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第24話 風を継ぐ少女

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(三)知らない力

◆ 知らない力


「私は精霊術士ではありません」


 ミレナはすぐに否定した。


「術を習ったこともありません」

「習った術ではないと思います」

「それなら、なおさら違います」

「風が来る前に分かるのは?」

「空気が変わるからです」

「どこで感じる」


 シアが尋ねた。


「どこ?」

「肌か。音か。匂いか」


 ミレナは答えようとして止まった。


「分かりません」

「でも分かる」

「そうですけど……皆さんも分かるのでは?」


 ハルヴェンが首を横へ振る。


「天候の知識から予想することはできます。しかし、毎回正確に感じ取れるわけではありません」

「私だって毎回ではありません」

「外した時を覚えていない」


 シアが言う。

 ミレナの表情が硬くなった。

 その変化に合わせるように、足元の土埃が薄く巻き上がる。

 近くの荷車に掛けられていた布が揺れた。

 村の外側から風が来たわけではない。

 ミレナを中心に、空気が離れるように動いている。


「今もです」


 ネアが静かに言った。


「あなたが警戒したことで、風がわたしたちとの間へ流れました」


◆ 小さな確認


「何をするつもりですか」


 ミレナは一歩下がった。


「何もしません」


 セトが答えた。


「あなたが嫌なら、無理に力を使わせることもない」

「では、なぜ私を探していたんですか」

「確認したいことがあるからです」

「もう確認したように聞こえます」

「まだ分からないことが多い」


 ネアがミレナへ手のひらを見せる。


「一つだけ、確かめてもよいですか」

「何を?」

「風を起こす必要はありません。そこに立ったまま、わたしの手を見てください」


 ネアの手の上へ、銀青色の原光が細い糸となって現れた。

 糸は風に揺れることなく、ゆっくり漂っている。


「これが原光です」

「見えません」

「見えなくても構いません」


 ネアは原光の糸を三本に増やした。


「今から、このうち一本だけをあなたへ近づけます。不快に感じたら、そう言ってください」

「危険は?」

「ありません」


 原光の糸が、ミレナへ少しずつ近づく。

 肩へ届く前に、ミレナが眉を寄せた。


「右から、何か来ています」


 糸が止まる。


「見えるのですか」

「いいえ。でも、冷たいような……細いものが」

「原光を感じています」


◆ 動いた三本


 ネアは三本の原光を、ミレナの周囲へ離して配置した。


「今度は、どこにあるか言ってください」

「右と……後ろ?」

「もう一本は?」


 ミレナは目を閉じた。

 その途端、三本の原光が同時に揺れた。

 揺れ方はばらばらだった。

 右の一本は上へ。後ろの一本は左へ。最後の一本は、ミレナの足元へ沈む。

 ミレナが息を吸う。

 三本の流れが向きを変えた。

 それぞれ別の場所にあったはずの原光が、ミレナを中心とした一つの流れへ組み直される。

 空気が動き、彼女の髪と服の裾を揺らした。

 ミレナは驚いて目を開ける。

 風はすぐに止まった。


「私がしたんですか」

「ええ」


 ネアが原光を消す。


「わたしは流れを置いただけです。動かしたのはあなたです」

「動かそうとはしていません」

「だから、無意識なのでしょう」

「そんなことを急に言われても……」


 ミレナは自分の両手を見る。

 手の形は変わっていない。

 何か特別なものが見えるわけでもなかった。


◆ 精霊術ではないもの


「私にも精霊術が使えるということですか」


 ミレナが尋ねた。


「それだけではありません」


 ネアが答える。


「普通の精霊術士は、周囲の原光と精霊へ働きかけます。あなたは、自分の内側にある役割によって流れを変えています」

「役割?」

「風の精霊王アイオロスの役割です」


 その名が告げられた瞬間、村の空気が動いた。

 強い風ではない。

 だが、広場にあるすべての布と草が、同じ方向へ一度だけ傾いた。

 ミレナは言葉を失った。


「今のも、私ですか」

「名に反応したのかもしれません」

「知りません。そんな名前」

「頭では知らなくても、役割の側に知識があります」

「私の中に?」

「ええ」


 ミレナは数歩下がった。


「待ってください。精霊王というのは、何なんですか」

「世界にある現象を、それぞれ担う存在です」


 ネアが答えた。


「火、月、雷。わたしたちも、それぞれの役割を持っています」


 ミレナはシアたちを見回した。


「あなたたちが、精霊王?」

「そうだ」


 シアが答える。


「私は違います」

「見た目は違う」

「見た目だけではありません。私は人間です」

「ああ」


 シアは迷わずうなずいた。


「それも合っている」



※第24話「風を継ぐ少女」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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