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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第24話 風を継ぐ少女

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(二)風に好かれた娘

◆ 風に好かれた娘


 ハルヴェンが身分を示し、旅の途中で人を探していると説明すると、村人たちの警戒は少し薄れた。


「風の変化に敏感な方はいませんか」


 ハルヴェンが尋ねる。


「風?」

「天気が崩れる前に分かる。風向きの変化を言い当てる。そのような方です」


 年配の女性が少し考えた。


「それなら、ミレナかね」

「ミレナ?」

「風が来る前に洗濯物を取り込むし、雨が降る前には窓を閉めろって言うよ」

「よく当たるのですか」

「よくというか、外したところを見たことがないね」


 隣にいた男が笑う。


「風に好かれてるんだろうって、昔から言われてるよ」

「精霊術を使うのですか」

「いや。あの子は精霊術士じゃない」

「風を動かしたことは?」

「そんな大げさなことはしないよ」


 女性は村の奥を指した。


「さっきまで広場にいたけどね。荷車を手伝ってたはずだよ」


 ネアが指された方角を見る。

 淡い緑の流れが、家々の間を抜けていた。


「間違いなさそうです」

「今の話だけで?」


 シアが尋ねる。


「流れも同じ場所へ向かっています」

「では行く」


 今度はセトも止めなかった。


◆ 落ちなかった袋


 村の奥では、数人が荷車から穀物の袋を下ろしていた。

 その中に、栗色の髪を後ろで緩くまとめた女性がいる。

 生成り色の上衣に、落ち着いた緑の長いスカート。

 外見だけなら、どこにでもいる村の女性だった。

 一つの袋が荷車の端へ引っかかった。


「危ない!」


 声が上がる。

 傾いた袋が女性の方へ落ちる。

 彼女はとっさに両腕を上げた。

 その瞬間、止まっていた空気が動いた。

 袋の下から風が巻き上がり、落下の向きをわずかに変える。

 袋は女性を外れ、地面へ横倒しになった。

 中身はこぼれなかった。


「大丈夫ですか、ミレナさん」

「ええ。驚いただけです」


 女性――ミレナは、自分の腕と袋を見比べた。


「今の、風が押した?」

「ちょうど吹いたんでしょう」

「風なんてなかったぞ」

「荷車の下を通ったのかもしれません」


 周囲の者たちは、不思議そうにしながらも作業へ戻った。

 ミレナ自身も、偶然だと考えたようだった。


「見た」


 シアが言う。


「ああ」


 セトにも見えていた。

 風は偶然吹いたのではない。

 ミレナが危険を感じた瞬間、その意思に沿って動いていた。


◆ 普通の人間


「精霊王の力ですか」


 ハルヴェンが小声で尋ねた。


「力だけを見れば」


 ネアはミレナから目を離さなかった。


「しかし、精霊王としての流れは表へ出ていません」

「人間にしか見えない」


 シアが言う。


「人間です」

「でも、中に風がある」

「ええ」


 ミレナが袋を持ち上げようとした。

 重さに顔をしかめる。

 風の精霊王級の力を持つ者には見えない。

 力を込めても袋は少ししか動かず、近くの男が手を貸してようやく持ち上がった。


「弱い」


 シアが率直に言った。


「聞こえるぞ」


 セトが止める。


「風の力を身体強化へ使っていません」


 ネアが説明した。


「そもそも、使えることを知らないのでしょう」

「本当に精霊王なのか」

「役割と知識を受け継いでいます。ただし、今の存在の中心は人間です」


 セトは、荷車のそばで礼を言うミレナを見る。

 精霊王を探してここまで来た。

 だが、目の前にいるのは、村で普通に働く一人の人間だった。


「まず話す」


 セトが言った。


「試すのは、そのあとだ」


◆ ミレナ


 作業が一段落したところで、セトたちはミレナへ声を掛けた。


「ミレナさんですか」

「はい」


 ミレナは五人を見回した。

 騎士装備のハルヴェンに目を止め、その後で人間とは異なる装いのシア、ネア、リグを見る。


「旅の方ですよね。何か御用でしょうか」

「少し聞きたいことがあります」


 セトが言った。


「風についてです」

「風?」

「風向きが変わる前に分かると聞きました」


 ミレナは困ったように笑う。


「村の人が大げさに言っているだけです」

「外したことは?」

「ありますよ。たぶん」

「いつですか」

「いつと言われると……」


 ミレナは考え込んだ。


「覚えていないだけだと思います」

「先ほど、落ちた袋を風が押しました」


 ネアが言った。

 ミレナの笑みが消える。


「見ていたんですか」

「ええ」

「偶然です」

「その可能性も考えました」

「では――」

「ですが、あなたが危険を感じた瞬間にだけ、周囲の原光が向きを変えました」


 ミレナはネアの言葉を理解できず、セトを見る。


「原光?」

「精霊術のもとになるものです」


 セトが答えた。


「あなたの周りでは、それが風として動いている」



※第24話「風を継ぐ少女」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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