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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第24話 風を継ぐ少女

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(一)街道を進む風

◆ 街道を進む風


 淡い緑の流れは、街道に沿って進んでいた。

 精霊王の移動とは違う。

 大地を離れて空を渡るのではなく、人間が歩く速さで、町や村を結ぶ道の上を移動している。


「まだ動いています」


 ネアが言った。


「追いつけるか」


 セトが尋ねる。


「こちらの方が速いです。ただ、近づくほど見分けにくくなっています」

「弱くなった?」


 シアが緑の流れをのぞき込む。


「いいえ。周囲へ広がっています」


 一本だった流れが、道沿いの草木や地面へ細く分かれていた。

 その一部は再び集まり、街道の先へ続いている。


「大地の記憶とつながっているからか」

「おそらくは」

「なら、本人だけ見ればいい」

「本人がどこにいるのかを探しているのです」

「一番濃いところだ」

「歩くたびに地面へ流れています。止まっている精霊王を探すのとは違います」


 シアは不満そうに道の先を見る。


「面倒だな」

「人間を追っているのですから、道を進めば会えます」


 ハルヴェンが言った。


「それなら面倒ではない」

「今の説明で変わりますか」

「道を進めばいいなら簡単だ」


 セトたちは、緑の流れを追って街道を進んだ。


◆ 残された足跡


 昼を過ぎたころ、道の脇に小さな休憩所が見えた。

 屋根と長椅子だけの簡素な建物で、近くには馬へ水を与えるための桶が置かれている。

 ネアは桶の前で足を止めた。


「ここにいました」

「今はいない」


 シアが周囲を見る。


「少し前まで、です」


 桶の水面は静かだった。

 だが、その周囲だけ、淡い緑の原光が渦を作っている。

 風が吹いた痕跡というより、風が立ち寄った痕跡だった。


「何をしていたか分かるか」


 セトが尋ねる。


「水を飲んだのでしょう」

「それだけ?」

「役割を使った形跡はありません。ただ、本人が触れた場所へ風の流れが残っています」


 リグが桶の縁へ手を置く。


「力を使った自覚がないなら、本人にとっては普通の動作だ」

「普通に歩き、普通に水を飲んでいるだけで、周囲の原光が風として整えられている?」


 ハルヴェンが尋ねた。


「ええ。ただし、非常に弱いものです」

「精霊術士なら気づく?」

「近くで注意して見なければ、難しいでしょう」


 ネアは街道の先へ目を向けた。


「本人自身も、気づいていない可能性があります」


◆ 先にある村


 休憩所を過ぎると、緑の流れは街道から細い道へ分かれた。

 道の先には、低い柵に囲まれた村が見える。

 石と木で作られた家々の向こうに、畑と小さな水路が広がっていた。


「止まった」


 シアが言う。


「村の中にいます」


 ネアは緑の流れを追った。

 しかし、村へ近づくほど、線は家々の間へ細かく分かれていく。


「一人ではないのか」


 セトが尋ねる。


「中心は一人です。ただ、薄い流れを持つ人間がほかにもいます」

「子孫が複数いる?」

「同じ血統の者が、この村へ何人か残っているのかもしれません」

「一番濃い者は分かるか」

「近づけば」


 シアが村へ入ろうとする。

 セトはその肩をつかんだ。


「待て」

「なぜだ」

「いきなり五人で囲むつもりか」

「見つけるだけだ」

「見つけられる側はそう思わない」


 ハルヴェンが村を見た。


「武装した旅人が五人ですからね。俺は騎士の身分を示せますが、それでも警戒はされるでしょう」

「では、どうする」

「普通に入る」


 セトはシアの肩から手を離した。


「精霊王を探しに来たとは、まだ言わない」


◆ 村に吹く風


 村へ入った時、風はほとんど吹いていなかった。

 畑の葉も、家の軒先に干された布も動いていない。

 それでも、村の中央へ近づくにつれて、空気の流れだけが少しずつ整っていった。

 煙突から上がる煙が、家々の間へ入り込まず、まっすぐ上へ抜けている。

 積まれた干し草の表面だけを、弱い風が一定の向きへなでている。

 水路の近くでは、湿った空気が畑の外側へ流れていた。


「誰かがやっている?」


 シアが小声で尋ねる。


「意識的な精霊術ではありません」


 ネアが答える。


「村全体を守っているのか」

「そこまで強いものではありません。生活の中で都合の悪い流れを、無意識に少しずつ変えているように見えます」

「煙が来れば外へ。湿気がたまれば畑の外へ」


 セトが周囲を見る。


「本人が嫌だと思った方向から、風が離れている?」

「近いと思います」


 リグがわずかに笑った。


「便利な力だな」

「本人が知っていればな」

「知らなくても、村の者は何か感じているかもしれません」


 ハルヴェンは、井戸の近くで話している村人たちへ向かった。



※第24話「風を継ぐ少女」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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