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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第23話 神殺しの剣

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(六)風を継ぐ者

◆ 人間として生きる者


「本人が自分を人間だと思っているなら、最初から精霊王として扱わない」


 セトが言った。


「でも、力は精霊王だ」

「役割があることと、本人がその役割だけでできていることは違う」


 シアは緑の線を見た。


「人間の中に、精霊王の役割と知識がある?」

「そう見えます」


 ネアが答える。


「本人は人間として生まれています。そこへ、大地の記憶から風の役割と知識が継承されたのでしょう」

「人間と風の境界は残っている?」

「ええ。眠りの王は境界を消します。この人間には、人間としての流れが残っています」

「風の役割も消えていない」

「ええ。人間であることを失わずに、風の役割を受け継いでいるのだと思います」


 セトは地図へ緑の線を書き加えた。


「見つけても、すぐに神殺しの剣の話を押し付けない」

「時間がない」

「だからこそ、順番を間違えない」

「順番?」

「本人が何を知っていて、何ができて、自分をどう考えているかを確かめる」

「そのあとで頼む?」

「ああ。断る権利があることも含めて話す」

「断られたら困る」

「困るから、選ばせないという話にはしない」


 ネアがわずかにうなずいた。


◆ まず探すもの


「神殺しの剣について、ほかに分かることはないのか」


 セトが尋ねた。

 シアは目を閉じた。

 先ほど浮かんだ断片へ、もう一度意識を向ける。

 だが、すぐに眉を寄せた。


「分からない」

「何も浮かばない?」

「剣がある。それだけだ」

「どのようなものかも?」

「空だ。三人入る。それ以上は分からない」

「もっと深く見れば分かるかもしれない」

「今はやめてください」


 ネアがすぐに止める。


「先ほども途中で呼吸が乱れていました」

「まだ見られる」

「見られることと、戻れることは別です」

「ネアが一緒なら戻れる」

「必ずとは言えません」


 シアは不満そうにネアを見る。


「必要なものだ」

「だからこそ、急いで壊してはなりません」

「壊れるのか」

「あなた自身にも分からない断片です。無理に引き出せば、断片だけでなく、周囲にある知識まで乱す可能性があります」


 シアはしばらく黙った。


「では、いつ見る」

「状態を確かめながら、少しずつです」

「また曖昧だな」

「あなたの状態が曖昧だからです」


 セトはシアを見る。


「剣については、ネアと一緒に無理をせず調べる」

「今すぐではなく?」

「ああ。今は、分からないものを無理に引き出すより、追える手掛かりを追う」

「風か」

「まずは、その役割を受け継いだ人間を探す」


◆ 風を継ぐ者


「神殺しの剣には、三人分の精霊王級の存在が必要です」


 ネアが続ける。


「剣について何か分かっても、三人目がいなければ使えません」

「風の継承者を見つければ、すぐ三人目になる?」


 シアが尋ねる。


「そうとは限りません」

「なぜだ」

「本人は人間として生きています。風の役割と知識を受け継いでいても、精霊王としての自覚があるかは分かりません」

「力があることも知らないかもしれない」


 セトが言う。


「ええ。それに、事情を知ったとしても、セトへ身を預けるかどうかは本人が決めることです」

「断られたら困る」

「先ほども話しただろう」

「覚えている」

「なら、まず会って話す」

「断られないように話す」

「断れないように、ではないぞ」

「分かっている」


 シアは緑の線を見る。


「でも、急ぐ」

「ああ。それは同じだ」


 リグが線へ細い雷を沿わせた。

 紫白色の雷が、枝分かれした風の流れを浮かび上がらせる。


「最も濃い流れは、まだ動いている」

「精霊王の移動ではありません」


 ネアが言った。


「人間が街道を移動している速さです」

「場所は絞れるか」


 セトが尋ねる。


「大まかには。ただし、精霊王のように一つの強い流れではありません。大地の記憶と、継承者本人の間をたどる必要があります」

「途中で見失う可能性は?」

「あります」

「なら、今のうちに追う」


 ハルヴェンが荷物へ目を向けた。


「各国への報告はどうします?」

「使者へ任せる。俺たちは風の継承者を探す」

「神殺しの剣については?」

「シアの中に残った断片を、ネアが調べる」


 セトは二人を見る。


「ただし、急がない。危険だと判断したら、すぐにやめる」

「分かりました」


 ネアが答えた。


「シアもだ」

「分かった」

「本当に?」

「今は分かっている」


 ネアが小さく息を吐いた。


「移動中も状態は確認します。断片そのものを無理に引き出すのではなく、どこまで触れても問題がないかを探ります」

「何か分かるかもしれない」

「分からない可能性もあります」

「それでも見る」

「ええ。ただし、わたしが止めたら止めてください」

「分かった」


 神殺しの剣について分かっているのは、まだわずかだった。

 神が残した空の器であること。三人分の精霊王級の存在が必要であること。そして、その三人とつながる使い手が必要であること。

 どこにあるのか。どのように使うのか。本当に眠りの王だけを消せるのか。

 それらは何も分かっていない。

 今、追える手掛かりは一つだけだった。

 精霊王として生まれず、大地の記憶から最も近しい者へ受け継がれてきた風。

 その役割と知識を現在受け継ぐ人間を探す。

 セトたちは、街道に沿って移動する緑の流れを追い始めた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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