(三)手加減できる炎
◆ 強くする
周囲が静かになった。
四体の魔物が動かないことを確認し、セトは白炎へ目を戻した。
「さっき、炎が大きくなった」
「ああ」
「お前が強くしたわけじゃないんだな」
「わたしは何もしていない」
シアはセトが持つ白炎へ近づいた。
「火をつけたのはわたしだ。だが、燃えている力は白刃に集まっているものだ」
「白刃の力を、火に変えているのか」
「そう見える」
セトは剣を軽く振った。
白い炎が刀身の後を追う。
意識を白刃の表面へ向けると、炎が少し強くなる。
反対に、集めた精霊力を剣の形へ強く固定すると、炎が小さくなった。
「俺の方で、ある程度は変えられる」
「もっと強くできるか?」
「試してみる」
二人は街道から外れた岩場へ移動した。
セトは人の背丈ほどの岩へ向かって白炎を振る。
最初の一撃では、表面が焼けて浅い傷が残った。
次は炎へ多くの力を回す。
白い火が大きく燃え上がった。
振り下ろされた白炎が岩へ深く食い込み、焼けた亀裂を作る。
「さっきの壁なら、これで簡単に壊せる」
「最初からそれを使えばよかったな」
「今見つけたんだよ」
◆ 弱くする
セトは白炎を見つめた。
「反対もできるか」
「反対?」
「弱くする」
「なぜだ」
「いいから見てろ」
白刃の形を崩さないよう、炎へ流れる力を絞る。
刀身を包んでいた白い炎が、細くなった。
さらに絞る。
炎はうっすらと刃の表面を覆うだけになる。
セトは足元に落ちていた枯れ枝へ、刀身の腹を近づけた。
最初は触れる前から焦げ始めた。
さらに炎を弱くする。
今度は、枯れ枝へ近づけてもすぐには燃えない。
しばらく当てて、ようやく表面が黒くなった。
「かなり弱くできるな」
「弱くしてどうする」
「大会で使える」
「強い方が相手を早く倒せる」
「早く倒しても、死んだら失格だ」
「殺さない程度に強くすればいい」
「その殺さない程度を決めるために弱くしてるんだよ」
シアは小さくなった白炎を見る。
「これでは防御壁を壊せない」
「壁には強くする」
「相手にも強くすればいい」
「人間相手なら弱くする」
「なぜ壁と人間で変える」
「壁は壊しても死なないからだ」
◆ 弱い技の意味
シアは納得していないようだった。
「弱い技に何の意味がある」
「手加減できる」
「手加減する意味が分からない」
「相手を殺さずに勝てるだろ」
「最初から攻撃しなければ、殺さない」
「それでは勝てない」
「なら強く攻撃すればいい」
「それだと殺すかもしれない」
「面倒だな」
「大会では重要なんだよ」
セトは白炎をさらに弱くする。
白い火はほとんど見えなくなった。
「例えば、これなら相手に当たっても、一瞬で全身が燃えることはない」
「倒せるのか」
「白刃で斬れば倒せる」
「斬るのか?」
「浅く斬る」
「炎を弱くして、剣でも弱く斬るのか」
「ああ」
「それなら、何のために炎を乗せる」
セトは答えに詰まった。
「……牽制になる」
「普通の白刃でいいだろ」
「見た目が強そうだ」
「見た目のためか」
「相手が警戒すれば、無理に斬らずに済むかもしれない」
シアはしばらく考えた。
「やはり弱い技の意味は分からない」
「大会に出れば分かる」
「分からなければ強くする」
「勝手に強くするなよ」
◆ 手加減できる炎
再び炎を強くする。
白炎はセトの意思に応じて、刀身を大きく包んだ。
弱くする。
今度は、刃の表面に白い光が薄く揺れるだけになる。
火を生み出したのはシアだった。
だが、一度白刃へ乗った後は、セトが強さをある程度調整できる。
防御を崩す時には強く。
人間へ向ける時には弱く。
「手加減できる炎の剣か」
セトが言った。
「強くもできる」
「そっちより、弱くできる方が大事だ」
「セトは変わっているな」
「お前にだけは言われたくない」
「強い剣を作ったのに、弱く使うことを喜んでいる」
「力は調整できた方がいいんだよ」
「最大で使えばいい」
「それしか考えてないだろ」
「ああ」
迷いのない返事だった。
※第5話「白炎」は全四回です。
続きます。
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