(四)残された風
◆ 預けた相手
「ハルヴェンとのつながりを切れば、セトとつながれる?」
シアが尋ねた。
リグの目がわずかに細くなる。
「切れと言うのか」
「可能か聞いた」
「可能かもしれない。だからといって選ぶとは言っていない」
「世界が――」
「シア」
セトが止めた。
「何だ」
「リグは、すでにハルヴェンを選んでいる」
「知っている」
「なら、その選択を消して三人目にするのは違う」
「でも、リグなら力は足りる」
「力だけで決めない」
シアは黙った。
眠りの王は、役割も力も人格も同じ場所へ入れ、違いをなくす。
それを止めるために、リグが誰へ身を預けたかという違いを無視すれば、していることが近づく。
ハルヴェンがリグを見る。
「俺が必要ならと言ったのは、つながりを捨ててもよいという意味ではありません」
「ああ」
「ですが、ほかに方法がなければ、俺も考えます」
「その時は俺が考える。お前が先に手放すな」
「分かりました」
リグはセトへ顔を向けた。
「候補から完全に外す必要はない。だが、最初に選ぶ方法でもない」
「分かった」
「シアも分かれ」
「今は分かった」
◆ 取り込まれていない力
「では、別の精霊王を探す」
セトは地図を広げ直した。
「眠りの王へ入っていない者の中で、まだ自分の境界を保っている者」
「さらに、人間とつながれる可能性がある者ですね」
ハルヴェンが言う。
「返事のない相手へ、いきなりそこまで求めるのは難しいがな」
リグは目を閉じ、周囲の原光へ細い雷を通した。
ネアも別の方向へ意識を広げる。
光。水。土。氷。樹。重。晶。
確認できる流れの多くは、東へ向かう途中で境界を失っていた。
残っているものも、弱く、不規則に揺れている。
「明確な個体として返る者はいません」
ネアが言った。
「昨日と同じか」
「ええ。ただ、一つだけ違う流れがあります」
「誰だ」
「誰、と呼べる形ではありません」
ネアは空中へ薄い緑色の線を作った。
線は東へ向かわない。
一か所へ集まることもなく、細かく枝分かれしている。
「風か」
リグが言った。
「ええ。アイオロスの役割です」
◆ 王の形を持たない風
「残っているのか」
シアが緑の線へ近づく。
「精霊王としては確認できません」
「また曖昧だな」
「役割と知識は残っています。しかし、一人の精霊王としてまとまっていません」
「死んで、世界へ戻ったのでは?」
ハルヴェンが尋ねる。
「それとも違います。通常の死亡なら、役割は原光の流れへ薄く広がり、次代が生まれるための核を作ります」
ネアは枝分かれした線をいくつか示した。
「これは、大地の記憶へ焼き付けられています」
「大地の記憶?」
「精霊王が、自分の役割と知識を意図的に手放すための方法です」
「なぜ、そんな方法がある」
セトが尋ねた。
「分かりません」
ネアはすぐに答えた。
「わたしにあるのは、方法についての知識だけです。誰が考え、どのような状況で使ったのかという記憶はありません」
「使い道は推測できるか」
「おそらくは、精霊王自身が役割を果たせなくなった場合のためでしょう」
「役割を果たせない?」
「身動きが取れない。長く封印される。自分では世界へ作用できない。そのような状態になった時、役割と知識まで失われないよう、大地へ残すのだと思います」
「本人が動けなくても、役割だけは残せる」
「ええ」
リグが緑の線を見つめる。
「風の精霊王は、封印されていたのか」
「その痕跡はありません」
「では、なぜ使った」
ネアは、最も濃い緑の線へ目を向けた。
「本来とは別の目的で使ったのでしょう」
※第23話「神殺しの剣」は全六回です。
続きます。
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