(一)残った言葉
◆ 残った言葉
眠りの王を消滅させる方法を探す。
方針が決まっても、すぐに手掛かりが増えるわけではなかった。
ネアは自分の継承知識を探り直す。
リグは、取り込まれずに残っている精霊王の流れを追う。
ハルヴェンは各国へ送る報告をまとめ、セトはこれまでに分かったことを地図の余白へ書き出していた。
シアは、そのすべてを見ながら腕を組んでいる。
「何もないな」
「探し始めたばかりだ」
セトは地図から顔を上げなかった。
「眠りの王へ届く方法。取り込まれた精霊王と眠りの王を分ける方法。分けた役割を世界へ返す方法」
「昨日も聞いた」
「一晩で増えていないから、もう一度確認している」
「増えていないなら、別のものを探す」
「何をだ」
シアは答えようとして、口を閉じた。
何かを思い出したようには見えなかった。
むしろ、思い出せないものへ手を伸ばしているようだった。
赤橙色の髪の先に、小さな火が灯る。
火はすぐに消えた。
「シア?」
ネアが呼ぶ。
シアは東へ消える細い流れを見たまま、低く言った。
「神殺しの剣」
◆ 知識ではない
「何だ、それは」
セトが尋ねた。
「分からない」
「知識にあるのでは?」
ネアの問いに、シアは首を横へ振った。
「知識なら説明できる。これは……何かが残っているだけだ」
シアは自分の胸元へ手を当てた。
「名前だけか」
「名前かどうかも分からない」
「今、自分で言っただろう」
「言葉になったから言った。でも、どこで知ったかはない」
ネアがシアの前へ立つ。
「その言葉を考えると、ほかに何が浮かびますか」
「剣」
「それは言葉に含まれています」
「大きい」
「剣が?」
「違う。剣になる前が」
シアは眉を寄せる。
継承知識なら、必要な部分を順番に取り出せる。
火の扱い方も、精霊王としての役割も、シアは生まれた時から知っていた。
だが、今浮かんだものには順番がない。
意味だけが欠けた形へ張り付いている。
「誰かの記憶か」
リグが尋ねた。
「記憶なら、見た場所や相手がある」
ネアが答える。
「これは、その周囲がありません」
「先代の記憶が残った?」
「通常の代替わりでは、個人の記憶は継承されません」
「通常ではない残り方をした可能性は?」
「あります」
ネアは否定しなかった。
「強い力へ触れた痕跡だけが、役割の側へ残ったのかもしれません」
◆ 剣になる前のもの
「もっと見ろ」
シアが言った。
「何をですか」
「わたしの中だ」
「簡単に言わないでください」
「ネアならできる」
「できることと、してよいことは別です」
「わたしがいいと言っている」
「あなた自身にも分からないものへ、こちらから触れるのです。慎重にします」
ネアはシアの額へ指を近づけた。
触れる直前で止める。
銀青色の原光が、二人の間へ細く伸びた。
「何か見えても、引き出そうとしないでください」
「引き出すのはネアだろう」
「あなたが無理に追えば、わたしも深く入ることになります」
「分かった」
「本当に?」
「今は分かっている」
セトは二人の近くへ座った。
すぐに止められることはない。
それでも、シアの様子が変われば声を掛けられる位置にいた。
しばらくして、シアの瞳の奥へ赤い光が走った。
「世界」
シアが言う。
「広い。まだ、今の形ではない」
「創られている途中ですか」
「分からない。でも、山も海も同じところにない」
「その中に剣がある?」
「まだない」
シアの呼吸が少し浅くなる。
「大きなものが、小さくなる」
「何がです」
「世界を見ているもの」
「神か」
セトの言葉に、シアはすぐには答えなかった。
「たぶん」
※第23話「神殺しの剣」は全六回です。
続きます。
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