(三)どちらが先か
◆ どちらが先か
「比べられないのか」
セトが尋ねた。
「原光の回復量は地域ごとに異なります。眠りの王の作用も、どこでどれだけ強いか確定できません」
「なら、待てば助かる可能性もある」
ハルヴェンが言った。
「あります」
「待てば先に世界が眠る可能性もある」
「あります」
「確率は?」
「出せません」
ネアは細い流れへ触れた。
その流れは、先ほどよりもわずかに薄くなっていた。
「ただし、今も境界を失い続けているものがあります」
「回復を待っている間にも消える者がいる」
「ええ」
「原光の回復が先でも、その前に何人かは取り込まれるかもしれない」
「すでに多くが取り込まれています」
ネアは視線を落とさなかった。
「待つという選択にも、失うものがあります」
「なら、原光を早く戻せばいい」
シアが言った。
「どこから持ってくるのです」
「多いところから少ないところへ運ぶ」
「世界全体で不足しています」
「全部同じではない。多いところもある」
「そこから奪えば、その場所に新しい空白ができます」
「少しずつなら?」
「広い範囲から薄く集めれば、一時的には可能です」
セトがネアを見る。
「眠りの王の中核へ集めるのか」
「近くというものが定まっていません。それに、集めた原光がそのまま取り込まれれば、眠りの王へ力を与える結果になります」
「原光を戻せば消えるのに、取り込まれれば大きくなる?」
「空白を外から埋められれば消えます。ですが、作用へ触れて境界を失えば、眠りの王の一部になる可能性があります」
「確かめるには危険すぎるな」
「ええ」
◆ 精霊王は原光を作れない
「わたしたちで増やせないのか」
シアが尋ねた。
「何をです」
「原光」
「作れません」
「火は作れる」
「原光を火へ変えているだけです」
「元へ戻せば増える?」
「変換したものを戻しても、最初に使った量を超えません」
リグが掌へ小さな雷を作り、すぐに消した。
「俺たちは流れを変える側だ。流れそのものを生む側ではない」
「そうです」
「では、人間の精霊術も同じか」
ハルヴェンが尋ねる。
「人間は周囲の原光を集め、精霊へ働きかけています。何もないところから増やしてはいません」
「世界が自分で戻すのを待つしかない」
「原光を増やすという意味では、そうなります」
「それ以外の方法を探すしかないか」
「ええ」
「東へ向かう流れを止める」
シアが次の案を出した。
「眠りの王へ入らなければ、取り込まれない」
「どこで止める」
セトが尋ねる。
「消える前だ」
「流れは一本ではありません」
ネアは空中へ無数の細い線を浮かべた。
「見えているものだけでも、各地から集まっています。見えていない流れもあるでしょう」
「全部止める」
「原光の流れまで止まります」
「精霊王の流れだけを分ける」
「すでに重なり始めています」
シアは線を見つめた。
「止めると、どうなる」
「境界が崩れかけた精霊王を、その場所へ留めることになります。周囲の原光を巻き込み、新しい空白を作る可能性があります」
「助けるつもりで増やすかもしれない」
「ええ」
「面倒だな」
「最初からそう言っています」
◆ 守れる場所はない
「人が多い場所だけ守ることは?」
ハルヴェンが尋ねた。
「王都や大きな町へ原光を集め、空白を近づけないようにする」
「短期間なら可能かもしれません」
「なら――」
「その外側が先に失われます」
ネアはハルヴェンの言葉を遮らず、続きが出る前に問題を示した。
「森、畑、川、街道、小さな村。原光を集めるほど、その周囲から先に空白が広がります」
「全員を町へ入れることもできない」
セトが言う。
「できたとしても、食料も水も外から来ます」
「町だけ残っても生きられないか」
「ええ。それに、眠りの王は一方向から近づくものではありません」
「壁で囲っても意味がない」
「原光の欠落が内部へ生じれば、壁の中から作用します」
ハルヴェンは苦い顔をした。
「避難先がない災害ですか」
「世界そのものの現象ですから」
「眠りの王のことを、そのまま各国へ伝えるのですか」
ハルヴェンが尋ねた。
「そのままでは伝わりにくい」
セトが答える。
「精霊王が消えている。原光の異常が続いている。大きな異変を見つけたら報告してほしい。それで十分だ」
「世界が終わる可能性は伏せる?」
「隠すつもりはない。ただ、確定していないことまで断定すれば混乱する」
「逃げる場所もないですからね」
「だからこそ、今必要な行動を伝える」
リグがハルヴェンを見る。
「ヴァレスト王国への連絡は任せる」
「戻る時間も惜しいので、まず使者を出します」
「ローディア王国にも、兵器の後始末だけで終わっていないと知らせる」
セトは、国を責める話と、今起きている危機への対応を分けて考えた。
※第22話「過ぎ去るのを待てない」は全五回です。
続きます。
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