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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第22話 過ぎ去るのを待てない

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(二)助かるとは言わない

◆ 人間だけは残れない


「精霊王ではないなら、人間は取り込まれにくい可能性があると言っていたな」


 セトが確認する。


「ええ。しかし、取り込まれにくいことと、生きられることは別です」


 ネアは地面へ視線を落とした。


「人間は火を作り、水を飲み、空気を吸い、大地の上で生きています」

「どれか一つでもなくなれば困る」

「ええ。すべての現象が同じものへ溶ければ、人間の身体も今の形を保てないでしょう」


 ハルヴェンが自分の手を見る。


「人間も、身体の中ではいろいろなものが別々に働いています」

「その違いも、世界の現象と無関係ではありません」

「人間だけを守る壁は作れない?」

「壁を作る力も、守られる身体も、眠りの王の外にはありません」

「残ったとしても、生きているとは言えないか」

「ええ。個人の境界だけが残ればよい問題ではありません」

「どれから眠る」


 シアが尋ねた。


「分かりません」

「火が先か。水が先か」

「属性ごとの順番ではないと思います」


 ネアは周囲の原光を薄く集めた。


「流れが弱い場所。すでに乱れている現象。個としての境界を失いかけている精霊王。そのようなものから影響を受ける可能性があります」

「同じ火でも、場所によって違う?」

「ええ。こちらでは燃えていても、別の場所では火としてまとまらなくなるかもしれません」

「人間は、どこから崩れる」


 セトが尋ねる。


「分かりません。身体かもしれません。周囲の空気や水が先かもしれません」

「確かめるために待つことはできないな」

「確かめられた時には、その場所で被害が始まっています」


◆ 助かるとは言わない


「その後は」


 セトが尋ねた。


「いつか、また始まるでしょう」


 ネアは、遠い未来を慰めのようには語らなかった。

 知識にある事実を、そのまま置く声だった。


「原光まで消えるわけではありません。長い時間をかけて流れが整えば、再び違いが生まれる可能性があります」

「火や水も戻る?」

「同じものかは分かりません」

「精霊王は?」

「役割が再び分かれれば、新しい精霊王も生まれるかもしれません」


 リグが腕を組む。


「今いる者ではない」

「ええ」

「人間もか」

「今の人間が戻るとは考えにくいでしょう」


 ハルヴェンが小さく息を吐いた。


「世界は続いても、俺たちは続かない」

「そうなります」

「始まるのは、今とは別の世界ですね」

「少なくとも、今の世界の続きとは呼べません」


 シアはしばらく黙っていた。

 難しい説明を理解できていないのではない。

 短い言葉へまとめようとしていた。


「それは、この世界が助かるとは言わない」

「ええ。ですから、今回は待つこともできません」

「普通は待つのだろう」


 セトが言う。


「普通なら、眠りの王が世界を眠らせる前に原光が戻ります」

「今回は普通ではない」

「古代兵器が、世界規模で原光を奪いました。眠りの王が活性化するほどの空白が、一度に各地へ生まれています」

「兵器は止まった」

「ええ。ですが、取り込まれた精霊王の力が眠りの王へ残っています」

「原光が戻るのと、眠りの王が大きくなるのが同時に進んでいる」

「そう考えるべきです」


 待つという知識は残っていても、今が待てる状態だという保証はなかった。


◆ 回復と吸収


 ネアは、周囲へ戻る原光と、東へ消える細い流れを並べた。

 一方は広く薄く世界へ戻る。

 もう一方は細いまま、境界を失う場所へ吸い込まれている。


「原光が戻れば、必ず眠るわけではないのか」


 ハルヴェンが尋ねた。


「本来は、そのはずです」

「今は違う?」

「眠りの王が、空白だけではなくなっています」

「取り込んだ精霊王の力か」


 リグが言う。


「ええ。役割も力も、個人として分けられないまま残っています」

「その力で空白を維持している?」

「可能性があります。少なくとも、原光が少し戻っただけでは消えていません」

「回復すれば弱くなる。だが、取り込めば強くなる」

「そう見えます」

「どちらが勝つか分からない」

「ええ」

「原光が戻る速さだけでも測れないか」


 セトが尋ねた。


「この周囲なら測れます」

「世界全体は?」

「ここからでは無理です。流れが戻っていても、別の地域ではまだ兵器の影響が残っている可能性があります」

「兵器は全部止めたはずだ」


 シアが言う。


「確認できた兵器は、です」

「まだある?」

「動いているほどの吸収は感じません。ただ、地下に残った器や、原光が戻りにくくなった流路までは分かりません」


 リグが地面へ手を当てる。


「流れが細い。止まってはいないが、元どおりでもない」

「回復の速い場所だけを見て、世界全体も同じだと考えるのは危険です」


 ネアの言葉に、セトは地図へ新しい印を付けた。



※第22話「過ぎ去るのを待てない」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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