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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第22話 過ぎ去るのを待てない

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(一)過ぎ去るのを待つ

◆ 倒すものではない


「では、どうする」


 セトがもう一度尋ねた。

 ネアは、東へ消えていく流れから目を離さなかった。


「眠りの王は、倒すものではありません」

「倒せない、ではなく?」

「ええ。倒すという考え方が、最初から合っていません」


 シアが眉を寄せる。


「精霊王を取り込んでいる。止めるなら倒す」

「通常の精霊王であれば、それでもよいでしょう。ですが、眠りの王には、倒したあとに世界へ返る役割がありません」

「何もないからか」

「何もないことが、眠りの王です」


 ネアは空中へ小さな黒い点を作った。

 周囲の原光が流れ込み、黒い点はすぐに小さくなる。


「放っておけば消えるのか」

「通常の空白なら、そうです。眠りの王も、原光が戻れば作用を失うものなのでしょう」

「通常なら?」

「ええ。ですが、今回はすでに精霊王を取り込んでいます」

「見たことがあるのか」


 リグが尋ねた。


「ありません」

「だが、対処は知っている」

「知識にあります」


 ネアは黒い点を消した。


「誰が眠りの王を見たのか。どの時代に現れたのか。どれほど続いたのか。そのような記憶はありません」

「知識だけか」

「ええ。空白が一定以上に広がった時、何が起きるか。精霊王がどう振る舞うべきか。その形だけが残っています」


 シアがネアを見る。


「先代たちが残した?」

「誰が残したかは分かりません。精霊王の役割に最初から含まれていた可能性もあります」

「なら、正しいのか」

「通常の状況に対しては、正しいのでしょう」

「今回にも?」

「それが分からないから、困っています」


 ネアは、知っていることと分からないことを分けるように言った。


◆ 過ぎ去るための知識


「人間の記録には残っていないのですか」


 ハルヴェンが尋ねた。


「眠りの王という名前で残っている可能性は低いでしょう」

「別の名前なら?」

「世界の終わり、長い夜、神々の眠り。そのような伝承に変わっているかもしれません」

「探す価値はあるな」


 セトが言う。


「ええ。ただし、伝承が同じ現象を指しているとは限りません」

「精霊王の知識にも、いつ起きたかはないのだろう」

「ありません。対処だけが残り、状況が抜けています」


 ネアはわずかに眉を寄せた。


「知識は整っています。だからこそ、今回にもそのまま当てはめてよいのか判断できません」

「経験がないのに、答えだけがある」

「ええ。便利ですが、危険でもあります」

「では、どうする」


 セトが尋ねる。


「過ぎ去るのを待ちます」


 ネアの答えは短かった。

 シアがすぐに聞き返す。


「いつまでだ」

「原光が戻り、あれが再び眠るまでです」

「眠りの王が、自分でどこかへ行くわけではないのか」


 ハルヴェンが尋ねた。


「移動する個体かどうかも分かりません。原光が満ち、空白が維持できなくなれば、作用を失う。その状態を、再び眠ると呼んでいるだけです」

「雨がやむのを待つのと同じか」


 リグが言う。


「近いですが、雨よりは厄介です。雨は降っている場所を離れられます」

「眠りの王からは離れられない」

「世界のどこにでも作用し得ますから」

「時間は?」

「分かりません。世界が空白を埋められるまでです」


◆ 世界が先に眠る


 リグが東へ続く流れを見る。


「戻らなかった場合は?」

「世界が先に眠ります」


 風が止まったわけではない。

 森の葉も揺れている。

 それでも、その言葉のあとだけは、周囲の音が遠くなったように感じられた。


「世界が眠るとは、どうなる」


 セトが尋ねる。


「精霊王だけではありません。火、水、雷、風。今は別々に働いている現象の境界が、少しずつ失われます」

「全部、眠りの王へ取り込まれる?」

「どこまでを取り込むと呼ぶかによります。ですが、最後には別々の現象として働けなくなるでしょう」

「火が燃えなくなるのか」

「火だけが止まるわけではありません。燃える、流れる、動く、固まる。その違いそのものが失われます」

「何も起きなくなる?」

「何が起きたかを分けられなくなります」


 シアが掌へ小さな火を作った。

 赤い炎が揺れる。


「これは火だ」

「ええ」

「眠れば、何になる」

「分かりません」

「消えるのか」

「消えるという変化も、火とほかのものが分かれているから言えることです」


 シアは掌の火を見つめた。


「燃えない。消えない。火でもない?」

「そのような状態に近いと思います」


 火は普通に燃えている。

 今はまだ、熱を持ち、光を放ち、空気を揺らしていた。

 セトは火の向こうにあるシアの顔を見る。


「すぐに全部が止まるわけではないのか」

「おそらく、境界の弱いものからです。すでに乱れている精霊王が先に影響を受けています」

「次は普通の精霊か」

「現象かもしれません。順番までは分かりません」


 シアは火を握るように消した。



※第22話「過ぎ去るのを待てない」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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