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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第21話 目覚める眠り

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(九)東へ消える線

◆ 兵器を止めたあと


 リグが東へ向かう流れを見る。


「古代兵器を止めるのが遅すぎたか」

「そうとは限りません」


 ネアが言った。


「あの時点で止めなければ、さらに多くの原光が失われていました」

「止めても目覚めた」

「目覚めたあとに、原光の枯渇を止めることはできました」

「最悪よりはまし、か」

「ええ」


◆ 兵器が招いた結果


 ハルヴェンが腕を組んだ。


「古代兵器を動かした者たちは、眠りの王のことを知っていたのでしょうか」

「可能性は低いでしょう」


 ネアが答える。


「精霊王の継承知識にすら、明確には残っていない存在です」

「知らずに目覚めさせた?」

「古代兵器を利用することが目的だったのでしょう」

「原光を減らすためではない?」

「原光は、兵器を動かし、再生させるための力として吸収されていました」


 ネアは少し考えてから続ける。


「世界から原光を奪うこと自体が目的だったとは限りません。兵器を使った結果として、世界の流れが崩れたのです」


◆ 誰も望まなかった結果


「知らなかったなら、仕方ないのか」


 シアが尋ねた。


「仕方がないとは言っていません」

「結果を知らなくても、兵器を動かしたことは変わらない」

「ええ。ただし、意図して眠りの王を目覚めさせたのとは分けて考えるべきです」

「眠りの王も、精霊王を取り込むつもりで目覚めたわけではない」


 セトが言った。


「意思があるかも分からないからな」

「では、誰も今の状態を目的にはしていない」


 シアが言う。


「おそらくは」

「でも、起きた」

「ああ」

「なら、止める」


 シアの答えは変わらなかった。


◆ 東へ消える線


 ネアは、眠りの王へ向かう流れをもう一度確かめた。

 原光は戻り続けている。

 古代兵器が停止した直後よりも、はるかに安定している。

 それでも、眠りの王へ入った流れは戻ってこない。

 取り込まれた精霊王の役割も、個人としての形を取り戻さない。


「変わらないか」


 セトが尋ねた。


「ええ」

「眠りの王は、今も取り込み続けている?」

「動いているという表現が正しいかは分かりません」

「取り込みは続いているのか」


 ネアは一つの細い流れへ手を伸ばした。

 それは、まだ完全には眠りの王へ入っていなかった。

 個人としてまとまった形が、わずかに残っている。

 だが、輪郭は薄い。

 少しずつ、境界が崩れていた。


「これは誰だ」


 リグが尋ねた。


「分かりません」

「役割も?」

「すでに複数の流れと重なっています」

「まだ取り込まれている途中か」

「おそらくは」


◆ 消える前に


 シアが前へ出た。


「止められるか」

「ここから触れることはできません」

「東へ行く」

「対策なしでは行けないと言ったでしょう」

「でも、このままなら消える」

「ああ」


 セトも立ち上がった。


「完全に取り込まれる前なら、できることがあるかもしれない」

「可能性はあります」

「では急ぐ」


 シアが言った。


「ただし、何も分からないまま中核へ近づくのはなしだ」

「またそれか」

「俺たちまで取り込まれれば、助ける者が減る」

「セトは精霊王ではない」

「俺とのつながりが切れれば、シアとネアも危ない」


 シアは黙った。


「リグ」


 セトが呼ぶ。


「何だ」

「眠りの王へ入っていない精霊王の流れを、もう一度探せるか」

「やる」

「東以外へ残っている流れも含めてだ」

「ああ」

「ハルヴェンはリグと一緒に」

「分かりました」

「シアは、取り込まれかけている流れに変化があれば教えてくれ」

「分かった」


 セトはネアを見る。


「ネアは眠りの王について、知識をもう一度探ってほしい」

「何を調べますか」

「近づいても取り込まれない方法だ」

「知識にあるとは限りません」

「それでも、何もないまま行くよりはいい」

「分かりました」

「俺は、今分かっている流れを地図にまとめる。東の海岸のどこまで絞れるか確かめる」


 ハルヴェンがセトを見る。


「身体は大丈夫なんですか」

「座って調べるだけだ」

「その言い方をする人は、だいたい途中で無理を始めます」


◆ 知識にあるもの


「剣は使わない」

「今は信じておきます」


 セトは、東へ消えていく細い流れを見た。


「ネア」

「はい」

「眠りの王を止める方法は、本当に知識にないのか」


 ネアはすぐには答えなかった。

 その沈黙を見て、セトは眉を寄せる。


「何か知っているのか」

「知識にあるものが、止める方法と呼べるのか分かりません」

「どういう意味だ」


 ネアは、色も光もない流れの先を見る。


「眠りの王は、通常の敵とは違います」

「それは聞いた」

「倒せば終わるものでもありません」


◆ 眠りの先


「では、どうする」


 ネアは答えなかった。

 細い流れの輪郭が、また一つ薄くなった。

 眠りの王には、はっきりとした姿がない。

 声もない。

 憎しみも、怒りも、世界を滅ぼそうとする意志もない。

 世界のどこにでも生じ得る空白。

 その中でも、最も多くの流れが集まるのは、ローディア王国よりさらに東。

 大陸の果てにある海岸のどこか。

 そこに中核がある可能性は高い。

 だが、近づけば取り込まれる。

 人間とのつながりによって境界を保ったシアたちでさえ、無事でいられる保証はない。

 火も。水も。雷も。役割も。名前も。自分と他者を分ける境界も。

 何も区別されない眠りの中へ、今も流れ続けている。

 世界の原光は戻り始めていた。

 それでも、一度目覚めた眠りは終わっていなかった。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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