(五)取り込まれた王たち
◆ 取り込まれた王たち
「では、ほかの精霊王は眠りの王に倒されたのか」
ハルヴェンが尋ねた。
「倒した、という表現は正確ではありません」
ネアが答える。
「戦った形跡がないからか」
「それもあります。しかし、眠りの王は相手を倒そうとはしません」
「何もしないのか」
シアが尋ねる。
「取り込みます」
「それは攻撃ではないのか」
「眠りの王からすれば、違うのでしょう」
「相手が嫌なら攻撃だ」
シアは即座に言った。
「その考え方は間違っていません。ですが、眠りの王に相手の意思を判断する部分があるかも分かりません」
「意思がない?」
「人格があるかどうかも不明です」
「精霊王なのに?」
「通常の精霊王ではありませんから」
リグがネアの前に残っている流れを見る。
「取り込まれた精霊王は、中で生きているのか」
「生きている、という言葉をどこまで当てはめるかによります」
「個人としては?」
「確認できません」
◆ 混ざる役割と人格
「役割は残っている」
「ええ」
「力も?」
「残っています」
「では、人格だけが消えた?」
「それほど単純ではありません」
ネアは三本の異なる色の流れを作った。
赤。銀青色。紫白色。
「精霊王は、役割と力と人格が完全に別々のものではありません」
三本の流れが、それぞれ人の輪郭を作る。
「火をどのように使うか。何を燃やし、何を残すか。それは役割だけでは決まりません。個人の判断が混ざります」
赤い輪郭が腕を伸ばす。
銀青色の輪郭は一歩下がる。
紫白色の輪郭は前へ踏み出す。
「同じ状況でも、シア、わたし、リグでは動き方が違います」
「わたしは前へ行く」
「俺も前へ行く」
リグが言った。
「同じではないか」
「俺は周囲を見る」
「わたしも見る」
「見たあと、お前はすぐ殴る」
「リグも雷を落とす」
「必要か確かめてからだ」
「わたしも必要だから殴る」
「二人とも、話を戻してください」
◆ 眠りと呼ばれる理由
ネアが言った。
「やはり似ているな」
セトが小さく言う。
シアとリグが同時にセトを見た。
「今はそこではありません」
ネアは三つの輪郭を近づける。
「眠りの王は、役割だけを奪って人格を捨てるのではありません。すべてを同じ場所へ入れます」
赤と銀青と紫白が重なった。
色が濁ることはなかった。
どれか一色になることもない。
境界だけが消えた。
腕の位置。顔の向き。立っていた場所。
すべてが分からなくなり、一つの形とも呼べない光になった。
「誰の力か分からない」
ハルヴェンが言った。
「誰の判断かも分からなくなります」
「中で話すことは?」
「話すためには、自分と相手が分かれている必要があります」
「分かれていないから、話せない」
「ええ」
「なら、眠っているのと同じか」
シアが言った。
ネアは頷いた。
「それが、眠りの王と呼ばれる理由です」
◆ 眠りの中の力
「死んでいるわけではない」
「役割も力も残っています」
「でも、起きてもいない」
「個人として働くことはできません」
「だから眠りか」
「ええ」
セトは境界を失った光を見る。
「眠りの王が、精霊王の力を使っているのか」
「使う、という意識があるかは分かりません。ただ、取り込まれた力は眠りの王の一部になります」
「大きくなっている?」
「おそらくは」
◆ 残った王たち
「何人取り込まれた」
「正確には分かりません」
「分かる範囲では」
ネアはしばらく黙った。
「少なくとも、リグとわたしが所在を確かめようとした精霊王の多くは、同じように流れが消えています」
「全員ではない?」
「個人としての輪郭を残している者もいます」
「無事なのか」
「それも分かりません」
ネアは別の細い流れを示した。
その流れは眠りの王へ消えてはいない。
だが、まっすぐ進むこともなく、不規則に揺れていた。
「形は残っています。しかし、流れが乱れています」
「原光を奪われた影響か」
「それだけではないかもしれません」
「眠りの王の影響も受けている?」
「可能性はあります」
ネアはそれ以上、断定しなかった。
眠りの王へ取り込まれずに残った精霊王も、以前と同じ状態とは限らない。
古代兵器によって原光を奪われた。
その結果、眠りの王が活性化した。
二つの異常を受けながら、それまでどおりでいられる保証はなかった。
※第21話「目覚める眠り」は全九回です。
続きます。
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