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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第21話 目覚める眠り

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(四)眠りの王

◆ 知識の底


 ネアは、もう一度目を閉じた。

 今度は周囲の流れではなく、自分の中へ意識を向ける。

 精霊王は、生まれた時から知識を持っている。

 属性の扱い方。

 世界の基本的な構造。

 自分が担う役割。

 過去の同じ役割が残した技術。

 だが、すべての知識を常に思い出しているわけではない。

 必要になった時、関係する知識が浮かぶ。

 知らないものを見た時、それに近い知識が引き出されることもある。

 ネアの中には、原光の吸収や欠落に関する知識が多い。

 原光を集める。反射する。偏らせる。散らす。

 流れを一時的に絶つ。

 自分が作る空白と、今見つけた空白が、どこまで同じなのかを探る。

 しばらくして、ネアの眉がわずかに動いた。


「知っているのか」


 セトが尋ねた。


「名前だけは」


 ネアが目を開ける。


「何という」


 ネアはすぐには答えなかった。

 知識が曖昧なのではない。

 言葉へ出す前に、その意味を確かめているようだった。


「眠りの王」


 小さな声だった。

 それでも、全員に聞こえた。


◆ 現象の眠り


「精霊王か」


 セトが尋ねる。


「そう呼ばれています」

「役割名は?」

「ありません」

「イフリートやセレーネのような名前がない?」

「ええ。通常の精霊王とは異なります」


 シアが首を傾げる。


「眠りを扱う精霊王ではないのか」

「人間を眠らせるようなものではありません」

「では、何を眠らせる」

「現象です」

「現象?」

「火が火として燃えること。水が水として流れること。雷が雷として走ること」


 ネアは、先ほど色を失った流れへ目を向けた。


「それぞれが別の役割を持ち、別のものとして存在する状態を終わらせます」

「全部を止めるのか」

「止めるだけではありません」

「なくす?」

「違いをなくします」


 シアは考え込んだ。


「火と水が同じになる?」

「最後には、どちらでもなくなります」

「原光へ戻すのとは違うのだな」


 セトが言った。


「違います。原光へ戻れば、そこから再び分かれることができます」

「眠りの王へ入ったものは、分かれない」

「少なくとも、そのままでは」


◆ 原光を持たない王


 ハルヴェンがネアを見る。


「眠りの王も、原光から生まれた精霊王なのですか」

「そこが曖昧です」

「分からない?」

「ある意味では、最も純粋な精霊王です」

「純粋?」

「精霊王は、原光から一つの役割へ分かれた存在です。火、月、雷、水。役割を得ることで、ほかとは異なる一個の存在になります」


 ネアは自分の手を見る。


「眠りの王には、その分かれた先がありません」

「何の属性でもない?」

「ええ」

「なら、原光そのものか」

「原光すら持っていません」


 セトはネアの言葉を待った。

 シアも口を挟まなかった。


「原光を持たない。しかし、存在している」


 ネアが続ける。


「そこに何もないことだけが、存在としてまとまっている。空白の精霊王と呼ぶ方が近いかもしれません」


◆ 境界のない空白


「闇とは違うのか」


 セトが尋ねた。


 黒刃も、原光を集めなかった結果として生まれる欠落だ。

 原光を排除し、一時的な空白を刃の形へ固定する。

 眠りの王も空白なら、黒刃やネアの力と近いように思える。


「近くはあります」


 ネアが答えた。


「ですが、根本的に異なります」

「何が違う」

「わたしが扱う欠落には、境界があります」


 ネアは指先へ小さな黒い点を作った。

 周囲の原光が押しのけられ、指先だけが光を失う。


「どこからどこまで原光を絶つのか。何を吸収し、何を残すのか。わたしが理解し、分けているから、この空白はこの形で存在します」


 黒い点は指先から離れ、小さな円になった。

 円の外側には原光がある。

 内側にはない。

 境目がはっきりしていた。


「眠りの王には、この境界がありません」

「空白が広がり続ける?」

「広がるというより、触れたものを自分との区別がない状態へ変えます」

「ネアの空白は、外と中が分かれている」


 セトが言う。


「眠りの王は、外にあるものを中へ入れて、同じものにする?」

「ええ」


 ネアは黒い円を消した。


「わたしは光を絶ちます。ですが、あれには絶つべき光すらありません」



※第21話「目覚める眠り」は全九回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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