(三)東へ向かう流れ
◆ 流れの先
ネアが探っているのは、精霊王の姿ではなかった。
精霊王が世界へ作用した痕跡だった。
火ならば熱。雷ならば放電。水ならば流動。
精霊王ほど大きな存在が長く同じ属性を担えば、周囲の原光にも偏りが残る。
その偏りを、過去から現在へたどっていく。
リグもネアとは別の方法で流れを探った。
原光へ細い雷を通し、どの方向へ流れやすいかを確かめる。
雷が自然に分かれる場所。急に弱まる場所。何かに引かれるように向きを変える場所。
何度繰り返しても、結果は同じだった。
「西へ戻っているわけではない」
リグが言った。
「北や南でもない」
「では、東か」
セトが尋ねる。
「大きな流れは東へ向かっている」
「古代兵器があった方角だな」
「ああ。ただし、ローディア王国の中で止まってはいない」
「もっと先か」
「そう見える」
◆ 東の海岸
ネアは、リグが通した雷とは別の流れを空中へ浮かべた。
何本もの細い光が、東へ向かっている。
まっすぐではない。
北や南へ逸れながらも、全体としては東へ集まっていた。
「ローディア王国より、さらに東です」
「海か」
ハルヴェンが尋ねた。
「大陸の東端には海岸があります。現在の流れだけを見れば、その付近である可能性が最も高いでしょう」
「場所が分かったのか」
シアが言う。
「可能性が高いだけです」
「でも、そこへ行けばいい」
「まだ行けません」
「なぜだ」
「流れは海岸へ届く前に、精霊王としての形を失っています」
◆ 形を失う力
ネアは複数の流れを近づけた。
銀青色。赤。紫白色。
それぞれ別の色を持っていた光が、途中から色を失う。
無色の原光へ戻ったわけではない。
光そのものが見えなくなっていた。
「ここまでは、それぞれ別の流れです」
ネアが言う。
「この先で、差がなくなっています」
「原光へ戻ったのではないのか」
「原光へ戻ったなら、周囲へ広がります」
ネアは色を失った場所の先へ指を動かした。
「ですが、この先には流れがありません」
「止まっている?」
「止まっているものがあるなら、そこに存在を感じます」
「では、何もない」
「何もないはずの場所へ、流れだけが入っています」
ハルヴェンが眉を寄せる。
「入ったものは、どこへ?」
「分かりません」
「出てこない?」
「少なくとも、同じものとしては」
リグが片膝をつき、地面へ手を当てた。
細い雷が走る。
雷はネアが示した流れへ入ると、急に形を失った。
音もない。光も残らない。
リグはすぐに手を離した。
「取られた」
◆ 試してはいけないこと
「どれくらいです?」
ハルヴェンが尋ねる。
「わずかだ。問題はない」
「何に取られたんです?」
「分からない」
リグは立ち上がった。
「だが、散ったのではない。俺とのつながりが途中で消えた」
「雷が消された?」
「雷だけではありません」
ネアが言う。
「原光へ戻ったなら、リグには流れを追えます。あれは、雷であることも、リグが放った力であることも失っています」
「同じところへ、精霊王も入った」
シアが言った。
「その可能性が高いです」
「なら、わたしが確かめる」
「何をするつもりですか」
「同じところへ力を入れる」
「リグとのつながりも消えました」
「わたしはセトとつながっている」
「だから戻れるとは限りません」
「今までは戻れた」
「今までと同じものではありません」
「では、同じか確かめる」
「確かめるために、戻れないかもしれない場所へ入るな」
セトが言った。
「戻れなければ、違ったと分かる」
「分かった時には遅い」
シアは不満そうに黙った。
リグが腕を組む。
「俺も反対だ」
「リグもハルヴェンとつながっている」
「つながりが守りになるかもしれないというだけだ。どこまで耐えられるか分からない」
「慎重だな」
「経験があると言え」
※第21話「目覚める眠り」は全九回です。
続きます。
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