(二)世界へ戻らないもの
◆ 残っているもの
精霊王は、通常の精霊とは異なる。
通常の精霊は、原光から一時的に属性を得た微細な存在だ。
火を起こす。風を動かす。水を集める。人間の身体を補助する。
役割を終えれば、再び周囲の流れへ戻っていく。
一方、精霊王は特定の属性と役割を持ち続ける。
火の精霊王は、火を担う一個人として存在する。
雷の精霊王も同じだ。
原光から分かれたあとも、同じ役割と人格を保ち続ける。
だから、本人が姿を見せていなくても、その属性の流れを深く探れば、存在している痕跡は残る。
「痕跡もないのですか」
ハルヴェンが尋ねた。
「まったくないわけではありません」
ネアが答える。
「そこが不自然なのです」
「いるのか、いないのか、どちらです?」
「以前はそこにいたことが分かります」
「今は?」
「個体としては確認できません」
◆ 死亡との違い
ハルヴェンは少し考えた。
「死亡した場合とは違うんですか」
「違います」
「なぜ分かる」
セトが尋ねる。
「精霊王が死ねば、役割だけが世界へ残ります」
ネアは地面へ手を向けた。
淡い原光が集まり、その一部が銀青色へ変化する。
「人格と記憶は失われますが、属性の役割までは消えません。残った役割を起点に、いずれ次代が生まれます」
「シアと同じだな」
「ああ」
シアが答えた。
「先代が死んで、残った火の役割からわたしが生まれた」
「先代そのものが戻ったわけではない」
「知識はある。でも、先代の記憶はない」
◆ 世界へ戻らない役割
ネアの手元に集まっていた銀青色の光が、いくつかに分かれた。
分かれた光はそれぞれ別の方向へ流れていく。
「死亡した精霊王の痕跡は、このように役割へ戻ります。個人としてまとまっていた流れがほどけ、次代が生まれるまで世界の中へ薄く残るのです」
「今回も、ほどけているのでは?」
ハルヴェンが言った。
「いいえ」
「何が違うんです?」
「世界へ戻っていません」
◆ 消えた先を追う
分かれていた光が止まる。
ネアが指を閉じると、光は一か所へ集まった。
「個人として存在していた形は失われています。ですが、役割も周囲の流れへ戻っていない」
「では、どこにある」
リグが尋ねた。
「それを調べています」
ネアは手を下ろした。
「完全に消えたのではありません。どこかへ移ったと考える方が自然です」
「精霊王を丸ごと移せるものがあるのか」
セトの問いに、ネアはすぐには答えなかった。
「分かりません」
「知らないのか」
シアが尋ねる。
「知識に、近いものはあります」
「では、それを使えばいい」
「近いだけです。今起きているものと同じかは、まだ分かりません」
「確かめるには?」
「消えた流れをたどります」
※第21話「目覚める眠り」は全九回です。
続きます。
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