(五)少なすぎる精霊王
◆ 少なすぎる
天幕の外から、負傷者を運ぶ兵士たちの声が聞こえる。
古代兵器との戦いは終わっている。
それでも、天幕の中へ安堵は戻らなかった。
「わたしも、少し気にはなっていました」
ネアが言った。
「何がだ」
「少なすぎるのです」
「何が」
「わたしたちが、です」
シアは天幕の中を見回した。
自分。ネア。リグ。
「三人いる」
「精霊王は、三人だけではありません」
「知っている」
「今回の異常は、ローディア王国だけの問題ではありません。原光は広い範囲から吸い上げられていました」
「だから、ほかも気づく」
「ええ」
「ここに来なくても、自分の場所で動いているかもしれない」
「その可能性はあります。ですが、それでも少なすぎます」
ネアはリグを見る。
「あなたが呼びかけても、誰も答えなかった」
「ああ」
「わたしも、この国へ来るまでに、ほかの精霊王とは会っていません」
「わたしもだ」
シアが言う。
「お前は生まれてから一年だろう」
リグが指摘した。
「会っていなくても不思議ではない」
「でも、ネアは長い」
「そうですね」
ネアは否定しなかった。
「普段から頻繁に会うわけではありません。しかし、世界規模の異常が起きている時まで、これほど気配がないのは不自然です」
◆ 考えられる理由
「原光が減ったせいで、動けなくなった可能性は?」
ハルヴェンが尋ねた。
「あります」
ネアが答える。
「ですが、精霊王は周囲の原光だけで存在しているわけではありません。シアが先ほど戦えたように、自分の内側にも力を持っています」
「かなり減った」
シアが言う。
「今はあまり出せない」
「それでも、存在そのものがすぐに失われる状態ではありません」
「場所によっては、ここより原光が少なかったかもしれない」
セトが言った。
「古代兵器は複数の場所から吸っていた。流れの近くにいた精霊王ほど、強く影響を受けた可能性はある」
「それも考えられます」
「全員が弱って、返事もできない?」
「全員という部分が問題だ」
リグが答える。
「俺もネアもシアも影響は受けた。それでも動けている。ほかの者だけが、全員同じように返事すらできなくなるとは考えにくい」
「何かと戦っている可能性もあります」
ハルヴェンが言う。
「古代兵器が、ほかの場所にも残っていたとか」
「それなら、何らかの異常が見えるはずです」
ネアは天幕の外へ視線を向けた。
「これほど巨大な兵器でなくても、精霊王が戦えば周囲の原光は大きく動きます」
「遠ければ分からない」
シアが言う。
「分かりません。ですから、まだ何も決められません」
「死んだ可能性は?」
セトが尋ねた。
ネアはすぐには答えなかった。
「否定はできません」
「全員が?」
「それは、さらに考えにくいです」
「では、どこかにいる」
「いるはずです」
ネアの言葉には、いつもの確信がなかった。
◆ 精霊王を探す
「精霊王が人間へ連絡せず、姿を隠すことはあるのか」
セトが尋ねる。
「あります」
ネアが答えた。
「人間との関わりを好まない者もいます。自分の現象や土地から、ほとんど離れない者もいます」
「ほかの精霊王とも会わない?」
「珍しくはありません」
「なら、存在を確かめる方法は?」
「直接探すしかない場合もあります」
「時間がかかるな」
「ええ」
「だが、探さないわけにはいかない」
リグが言った。
「古代兵器は止まった。原光を吸い上げていた原因もなくなった。それでも返事がないなら、別の理由がある」
「原光が戻れば、返事が来るかもしれない」
シアが言う。
「その可能性はあります」
「では待つか」
シアの問いに、ネアは頷いた。
「少しは待ちます」
「待つのか」
「セトも、わたしたちも、すぐには動けません」
「わたしは歩ける」
「歩けても戦えません」
「殴ることはできる」
「先ほどから手が震えています」
シアは両手を背中へ隠した。
「震えていない」
「隠さないでください」
セトが寝台の上で息を吐く。
「シア、今日は休め」
「セトが言うなら休む」
「わたしが言っても聞かないのですか」
ネアが尋ねる。
「ネアは少し動ける」
「わたしも原光の流れを止め続けていたのですが」
「では、一緒に休む」
「最初からそうしてください」
※第20話「来なかった精霊王たち」は全六回です。
続きます。
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