(二)噂の二本
◆ 噂の二本
ハルヴェンは三人の会話を聞きながら、セトを見ていた。
「あなたがセトさんだったんですね」
「さっき名乗っただろ」
「名前は聞きました。ただ、噂の人物と同じだとは、まだ確認できていませんでした」
「噂?」
「東へ向かう途中で聞きました」
ハルヴェンはシアとネアを見る。
「火と月。二人の精霊王を、それぞれ精霊剣として使う剣士がいると」
「もう噂になっているのか」
セトが眉を寄せる。
「ローディア王国で、古代兵器を次々に倒していましたからね。兵士や術士だけでも、かなりの人数が見ています」
「使う、ではありません」
ネアが言った。
「わたしたちが、自分の意思で身を預けています」
「はい。今は理解しています」
「噂は違ったのか」
シアが尋ねる。
「完全に間違っているわけではありません。ただ、二人の精霊王を剣に従わせているとか、二本の精霊剣を同時に振るっても疲れないとか、いろいろ混ざっていました」
「従わせていない」
セトが言う。
「疲れないというのも違う」
「それは見れば分かります」
ハルヴェンは、岩陰から起き上がることもできないセトを見る。
「噂を聞いた時は、もっと人間をやめているような方を想像していました」
「失礼だな」
「二人の精霊王を同時に扱い、巨大な古代兵器を倒し続けても平然としている人物ですよ。普通の人間とは思えません」
「平然とはしていない」
「ええ」
ハルヴェンは頷いた。
「今は指も満足に動かせないようですし、少なくとも人間としての限界はあるのだと分かって、少し安心しました」
「安心するところか」
「同じ人間だと分かるのは大事です」
「俺は最初から人間だ」
「噂だけを聞くと、少し疑いたくなります」
セトはもう一度腕を動かそうとした。
指がわずかに曲がっただけだった。
「少し休めば動ける」
「そこも人間らしくて安心します」
「褒めているのか」
「褒めています」
「そうは聞こえない」
ハルヴェンの口元が少し緩んだ。
◆ 轟雷
「そういえば、さっきの剣には名前があるのか」
シアが尋ねた。
「轟雷だ」
リグが答える。
「俺がハルヴェンへ身を預けた、雷の精霊剣の名だ」
「ゴウライ」
「そうだ」
「分かりやすい」
「極炎も似たようなものだろう」
「そうか?」
「火の力を極めた炎。雷を轟かせる剣。方向は同じだ」
「絶光は?」
シアがネアを見る。
「光を絶つ剣です」
「同じだな」
「わたしまでまとめないでください」
「嫌なのか」
「嫌とは言っていません」
リグはハルヴェンの肩へ手を置いた。
「それに、ハルヴェンはすごいぞ。二つの極大技を使う」
「見た」
シアが答えた。
「バリバリ飛ばすのと、ズドンと通すやつ」
リグの眉が動いた。
「……もう少し言い方があるだろう」
「分かればいい」
「俺も、戦っている最中はだいたい同じ認識です」
ハルヴェンが言った。
「お前までそちらへ行くな」
「実際、広く雷を伝える技と、一点を貫く技ですから」
「だから、それぞれに名前がある」
リグはシアへ向き直った。
「広範囲へ雷撃を伝播させるのが――」
「バリバリ」
「最後まで言わせろ。万雷だ」
「分かった。万雷」
「高速で一点を突破するのが――」
「ズドン」
「先に言うな。迅雷だ」
「分かった。迅雷」
「本当に分かったのか」
「万雷がバリバリで、迅雷がズドン」
「結局そちらで覚えているではないか」
シアはハルヴェンを見る。
「二つとも、ハルヴェンが考えたのか」
「考えたというより、リグと一緒に使える形を探しました」
「俺は雷の出力と流れを制御する」
リグが続ける。
「どこへ踏み込み、どの瞬間へ力を集中させるかは、ハルヴェンが決める」
「極炎と同じだ」
「精霊剣なのだから、基本は同じだ」
※第20話「来なかった精霊王たち」は全六回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




