(一)巨大兵器の誘導
◆ 地上へ出るもの
窪地の中央で、地面が持ち上がった。
土と岩が斜面を滑り落ちる。
崩れた場所から、黒い外殻が姿を現した。
前日に亀裂の奥から見えていたものは、兵器のほんの一部でしかなかった。
地面からせり上がるたび、新たな外殻が現れる。
黒い金属の塊は、窪地そのものが起き上がっているように見えた。
「大きすぎるだろ」
隊長が呟いた。
兵器の上部と思われる場所が、ようやく土の中から現れる。
いくつもの砲口。
折り畳まれていた太い脚。
外殻の隙間を走る、白い原光。
頭部に当たる部分があるのかさえ分からない。
これまでの古代兵器は、巨大であっても一体の魔獣に近い形をしていた。
目の前のものは違う。
城壁と攻城兵器を、そのまま一つへまとめたような姿だった。
「全軍、予定どおりに動け!」
隊長が叫ぶ。
「正面から撃つな! 北側へ進ませろ!」
窪地の左右に配置された大砲が火を噴いた。
砲弾が古代兵器の左側へ集中する。
爆発。
外殻の表面が砕け、黒い破片が飛び散った。
古代兵器の身体が、わずかに右へ向く。
反対側では、術士たちが火と風を放った。
倒すための攻撃ではない。
兵器が進む方向を限定するための攻撃だった。
「動いた」
シアが言う。
「ああ」
セトは兵器の進路を見る。
予定していた誘導路へ向かっている。
「ネア」
「まだです」
原光の流れが一本になる場所で、ネアが答えた。
長い袖と羽衣が、流れに沿って大きく揺れている。
「兵器が封鎖地点へ完全に入ってから止めます。今止めれば、別の方向へ進む可能性があります」
古代兵器が一歩進む。
太い脚が地面へ沈み、山全体が揺れた。
次の一歩で、森の端にあった木々がまとめて倒れる。
事前に誘導路を切り開いていなければ、兵士たちが巻き込まれていた。
「右側、撃て!」
隊長の指示で、別の砲列が攻撃を始める。
外殻へ砲弾が当たる。
兵器は攻撃を受けた方向へ砲口を向けた。
「退避!」
白い光が砲口へ集まる。
兵士たちが伏せた直後、太い光が地面をなぎ払った。
大砲が二門、土ごと消える。
攻撃そのものが、原光で形作られていた。
「止まるな!」
隊長が再び叫ぶ。
「残った砲で撃て!」
◆ 誘導
セトはシアへ手を伸ばした。
「行くぞ」
「ああ」
シアの身体が赤い光へ変わる。
光はセトの手へ集まり、一本の剣となった。
火の精霊剣、極炎。
刀身の周囲で、白に近い炎が揺れる。
セトが地面を蹴った。
炎が背後で爆ぜる。
一瞬で古代兵器の側面へ到達し、その外殻を斬り上げた。
赤白い線が、巨大な黒い面を走る。
遅れて外殻が割れた。
兵器がセトへ砲口を向ける。
『右だ』
シアの声に従い、セトは横へ跳んだ。
光が通り過ぎる。
避けた先で兵器の脚へ降り、もう一度極炎を振るう。
脚の外殻が裂けた。
兵器の身体が傾く。
「そっちじゃない」
セトは兵器の北側へ回り込む。
炎の斬撃を放つ。
古代兵器は、攻撃を受けたセトへ向き直ろうとした。
その動きによって、さらに北へ進む。
『うまくいった』
「まだだ」
兵器の上部に並ぶ砲口が、まとめて光り始めた。
セトは外殻を駆け上がる。
砲口が光を放つより早く、極炎を横へ振り抜いた。
三つの砲口が切断される。
切断面から原光が漏れた。
しかし、すぐに黒い金属が盛り上がり始める。
『再生している』
「ああ」
原光は、まだ周囲から流れ込んでいる。
破壊しても、すぐに修復される。
今は倒す段階ではない。
セトは炎を噴き出し、兵器から離れた。
砲撃と精霊術を避けるように、古代兵器が岩場へ入っていく。
「もう少しです!」
ネアが声を上げる。
巨大な前脚が、原光の流れを狭めた地点を越えた。
続いて本体。
最後の脚も、岩場へ入る。
「今です!」
※第19話「雷の精霊剣」は全七回です。
続きます。
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