表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/47

第三十五話「流出」

【拡散記録:分散型情報爆発の観測】

媒体:匿名掲示板全文ログ、SNSトレンド、切り抜き動画群、海外フォーラムの翻訳

回収日時:7月18日

特記事項:久世調査事務所から押収された全データ(KJ-017)の流出を確認。


吉祥寺の事務所で何が起きたのか。それを記録した「KJ-017」の全ファイルが、何者かの手によって匿名掲示板に一括アップロードされた。それはもはや単なる「失踪事件の記録」ではなく、一種の呪いとしてネットワークを駆け巡り始めた。

 

【匿名掲示板スレッド:『【全文】KJ-017資料まとめ【閲覧注意】』】

投稿01:「これ、マジの記録だろ。創作にしては生々しすぎるし、後半の久世の変貌が怖すぎる」

投稿02:「読んでる途中で気分悪くなった。頭の奥が痺れる感じ」

投稿03:「でも……ちょっと、いや、かなり分かってしまうのが一番きつい」

投稿04:「『静かな方が楽』っていうあのフレーズ。正直、人生の真理を突かれた気がした」

投稿05:「だから危ないんだろ。納得したら、お前も消えるぞ」


危険性を訴える声が大きくなればなるほど、人々の興味は燃え上がり、逆説的に『KJ-017』の認知度は爆発的に高まっていった。

 

【動画切り抜き拡散:『KJ-017が怖すぎる』】

再生数:421万回

配信者の発言(抜粋):

「最初はよくあるモキュメンタリーだと思ってた。でもね、読んでるうちに自分の頭の中に『あいつの言葉』がこびりついて離れなくなるんだ。『静かな方が楽なのだ』。この言葉を思い出すたびに、スマートフォンの通知が、誰かとの約束が、全部ゴミみたいに思えてくる。自分が壊れていくのか、それとも『正しく』なっているのか、もう分からない」

コメント欄の反応:

「これ読んだ後、反射的にインスタ消した」

「正直、人間関係を全部切り捨てて、静かになりたい自分を肯定してもらえた気がした」

「怖いけど、救われた気がする。久世さんはきっと『救われた』んだと思う」


海外の電子掲示板でも、この現象は「認識災害(Cognitohazard)」として議論され始めている。

【海外掲示板翻訳ログ:『KJ-017 is cognitohazard?』】

投稿翻訳:「これは古典的な洗脳ではない。読者自身が心の底に隠していた『疲弊』と『孤立への願望』を利用する、極めて高度な心理ハッキングだ」

投稿翻訳:「『読むこと』自体が、マニュアルに書かれた工程の一部として組み込まれている。資料を読むたびに、読者は自分自身で思考を整列させてしまう」

投稿翻訳: 「警告を発する行為すら、他者の興味を誘導するマーケティングとして機能している。議論を始めた時点で、我々はもう負けている」

 

【トレンド分析:急増ワード】

#静かな場所

#もう迷わない

#通知切った

#KJ-017

 

SNS上では、資料を読了した者たちが、自発的に自らの生活を『切断』し始めている。

「最近、人間関係を整理したら驚くほど楽になった」

「頭の中が静か。通知の音がしないだけで、こんなに呼吸がしやすいなんて」

これらは、かつて三上葵や久世透が辿った道、その初期段階そのものだった。


【掲示板ログ②:『【報告】KJ-017読了後の変化』】

投稿01:「スマホを見る時間が10分の一になった。誰とも喋らなくても死なないことが分かった」

投稿02:「通知を全部切った。部屋が静かだ。これが本当の『自由』だと思う」

投稿04:「これ、本当に創作なのか? もし現実なら……久世さん、俺もそっちに行きたいよ」


そして、あの日から一度も沈黙を破ることのなかったあのアカウントが、再び動き出した。

【新規投稿:@quiet_room】

投稿内容: 「ここまで読んだなら、もう、言葉は要らないよね」

投稿時刻:03:17

コメント欄には、短く、けれど無数の同一フレーズが並んだ。

・「分かる」

・「静かにしたい」

・「通知を切ってくる」

それはまるで、見えない巨大な怪物の胎内へ、自ら歩み寄る群衆の足音のようだった。


この資料(KJ-017)は、今この瞬間も誰かのスマートフォンで開かれ、その人の精神を『静寂』へと作り替え続けている。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ