29.
太陽の日差しをいっぱい浴びたお布団に潜り込んだような、じんわりと全身を温めてくれるお湯に包まれているような。
色とりどりの光に満ちあふれる優しい空間。
私は、この場所を知っている。
ここは、あの命名式の日、初めて夜空の妖精に会った場所だ。
ふわりふわりと、銀の輝きが飛び交っている。そのうちの一つが、私の目の前へとやってくる。
そっと両手を差し出すと、光は瞬きながら手の上に降り立った。
〈やっと呼んでくれた〉
子供の声のようにも、老齢な大人の声にも、男性にも女性にも聞こえる声。
けれど、それは確かに私に加護を与えてくれた、夜空の妖精だと解る。
〈ずっと、ずーっと待ってたんだ。このまま、呼んでくれなかったらどうしようって、すっごく心配した〉
それは妖精の感情なのだろうか。
喜びと同時に伝わってくるのは、いたたまれないほどの焦燥感。不安ともどかしさがないまぜになった、そんな気持ちだった。
でも、どうして。
〈初めてだから〉
鈴の音が、響く。
〈閉まっているんだ。だから、呼んでくれないと、君の元にいけないんだよ、ローズ〉
どういうこと。夜空の妖精は、なにを言っているのだろう。
〈でも大丈夫。これからは、ずっとローズの傍にいるから〉
これからはってことは、今まで傍にいなかったっていうこと。
妖精は、見ることは出来ないけれど、ありとあらゆる場所に存在し、常に私達を見守っていると言われている。だからなんとなく、加護をくれた妖精はずっと傍にいると思っていたのだけれど。
そもそも妖精の加護って、どういうものなのだろう。
加護を与えた妖精が、その人に力を貸してくれることにより、魔法という形で発現される。とはいえ、自然の理を乱すほどのものではなく、生活に役に立つ程度のささやかなものがほとんどだ。
だからこそ、妖精職人は特別なのだけれど。
妖精に一番近い存在と言われている、妖精職人。
それなのに、今まで、私の傍に夜空の妖精はいなかったということなのだろうか。
〈ローズ。君の望むままに〉
胸の奥底が、暖かくなる。自分の体の中の魔力が大きく膨らんでいくのが解る。
きっと。
きっと今なら、あの美しい色を作り出すことができる。
そんな気がした。




