タイトル未定2026/08/17 07:06
予約した二時間は、あっという間に過ぎて、大門達はカラオケの店を出た。
「何か、食べに行かない?」
游太の言葉に、まひろが言った。
「遅くなるから、私は帰る。ごめんね」
まひろは大門たちに手を振って、歩きだした。
まひろがいなくなり、三人になった大門達は、ファミレスに向かって歩きだした。
「あぁ、楽しかった!今度は、大門君と一緒に歌いたいなぁ」
結局りさは、大門と一緒に歌うことはなかった。
大門は何も言わず、苦笑いをしただけだった。
そんな大門に、りさは不服の声を上げた。
「大門君、なんで歌ってくれなかったの?」
「だって、りさっちが選曲する歌、知らない歌ばっかだから」
「じゃぁ、どんな曲だったら歌えるの!」
「えっとぉ……」
大門とりさが言い合っていると、游太が声を上げた。
「あれっ、あの人。大門君のお父さんじゃ?」
「えっ、何処何処?」
「ほら、あそこ!」
スクランブル交差点が赤信号で、歩道で立ち止まっていたマスターがいた。
思い出したように、大門が言った。
「今日は、出かけるって言っていたっけ」
そう言っている内に、大門達はマスターが立っている同じ歩道に着いた。
「こんばんは!」
游太の声で、マスターは大門達に気がついた。
「あっ、こんばんは」
仕事帰りのマスターは、黒いつばのあるキャップをかぶり、黒のティーシャツにジーパンとスニーカーを履いていた。
背中には、黒の縦長のリュックを背負っていた。
仕事に行く時乗っていく自転車は、診療所の駐輪場に置いて、バスを使って繁華街に来た。
マスターは、大門に聞いた。
「今から、帰るんですか?」
「ファミレスで、ご飯食べてから帰るよ」
「わかりました。気をつけて、帰ってください」
「うん。あの……」
言いかけた大門は、黙ったままマスターの腕を取り、游太とりさから離れた。
二人から離れた大門は、マスターに言った。
「今夜、流花お姉ちゃんが来るんだよね?」
「はい」
「流花お姉ちゃんに会いたいから、なるべく早く帰ってきてよ」
「わかりました」
マスターは、静かに微笑んだ。
游太とりさの前で、流花の名前を出してはいけない気がした……と言うより大門自身游太とりさの前で、流花の名前を出したくなかった。
信号機が青になり、マスターは歩道を歩き、大門は游太とりさの所へ戻った。
游太が大門に聞いてきた。
「お父さんに、何か話があったの?」
「ちょっとね」
「大門君のお父さん、かっこいい!それに、とてもやさしそう」
りさが恋する乙女のような顔をして、声を上げた。
「早く、ファミレスに行こうよ」
大門は先頭を切って、歩きだした。
游太とりさは、慌てて大門を追いかけた。
大門に追いついた游太が、大門に聞いてきた。
「気になっていたんだけどさぁ」
「何?」
「大門君のお父さんって、いつも敬語で話すよね」
「初めて大門君のお父さんに会ったけど、私もそれ思った」
游太とりさの疑問に、大門は答えられなかった。
「なんでかなぁ?僕に、聞かれても……」
「夜に出歩いても、全然怒らなかったよね。良いなぁ」
游太は、うらやましげに言った。
「大門君のお父さん、イケメンなだけじゃなく、本当に優しいね」
りさが言うと、游太は思い出したように言った。
「小学校の卒業式の後、僕の両親が大門君のお母さんを、初めて見たって言っていた!」
「えぇ〜どんな、お母さん?」
りさが、食いついた。
「若くて背が高くて、モデルみたいだったって言っていたよ」
「大門君のお父さんと、お似合いじゃない?憧れるぅ〜見てみたぁい!」
「僕も、見てみたいよ」
游太は笑いながら言った。
……僕のお母さんって、流花お姉ちゃんのことだ!流花お姉ちゃんは、僕のお母さんじゃないのに……。
游太とりさの会話を聞いていた大門は、そんな思いで黙ったまま歩いていた。




