タイトル未定2026/08/17 04:45
診療所は午前の診療時間が終わり、待合室は静まり返り閑散としていた。
視察室に入った看護師の園田亜美は、回転椅子に座ってパソコンと向き合っているマスターに声をかけた。
「先生、午前の診察終了です」
「お疲れ様」
亜美は窓際に行き、使用した器具の消毒を始めた。
消毒をしながら、亜美はちらちらマスターを盗み見していた。
マスターは パソコンのモニターを見ながらキーを打っていた。
「お疲れ様ぁ」
院長の診察室で仕事をする、看護師の久保由美が亜美の隣に来た。
亜美の隣に立つと、由美も使用した器具の消毒を始めた。
消毒をしている音と、キーを打つ音だけが診察室の中に聞こえる。
ふと、携帯のラインの着信音が鳴り、マスターのキーを打つ音が止んだ。
亜美は、そっと振り返った。
それまでパソコンのキーを打っていたマスターは、携帯のラインの文字を読んでいた。
その表情は、いつもの穏やかな表情と違い険しかった。
ラインを読み終えたマスターは文字を打ち始めたが何度も打ち直し、一向にラインを送る気配がなかった。
ラインを送るのを諦めたのか、携帯を手にしたまま診察室を出て行った。
器具の消毒をしていた亜美は、マスターが気になって仕方がない。
……先生が送るのをためらってしまうラインって、どんなラインだったの?今、先生は何をしているの?
すぐにでもマスターを追って、マスターが何をしているのか見たい亜美だったが、さすがに自重をした。
器具の消毒を終えた亜美と由美は、休憩室に行き昼休憩をとっていた。
テーブルを挟んで向き合って、亜美と由美はお弁当を食べた。
亜美が言おうとしたことを、由美が言い出した。
「亜美ちゃん、見た?」
「何を?」
「ラインをもらったのに、ラインを送れない先生を」
「うん。見ちゃった」
「ラインを送れなくて、先生診察室を出て行ったけど。あれ、電話をかけに行ったんだよ」
「そうなの?携帯を、ずっと見ていたのは知っているけど」
器具の消毒をしながら、亜美は胸の中でつぶやいた。
……電話をかけに行ったの、知ってる……。
マスターがラインを送れなくて、診察室を出て、電話をかけに行ったことを亜美は知っていたが、敢えて知らないふりをした。
そんな亜美に気が付かず、由美は言った。
「ラインの相手、誰かなぁ?やっぱ、彼女の流花ちゃんかなぁ」
「そうだね」
「どんなラインをもらって、どんな電話をしたのかなぁ。気になるね」
「気になるよね」
この言葉は、亜美の本心だった。
「先生を困らせるような彼女って、どんな彼女かなぁ」
……若くてモデル並みの容姿で、大人っぽいのにあどけない顔をした彼女だよ。私たちにとって、雲の上のような存在……。
亜美のつぶやきに気が付かない由美は、想いのままに言った。
「気になるから、先生に近づいて探っちゃおうかな」
由美の言葉に、亜美の中で下火になっていた嫉妬が少しずつ広がっていた。




