タイトル未定2026/08/17 03:48
bar「ジェシカ」の店内に、新たな客がやって来た。
大きな赤いリボンをつけたツインテールに、赤色のチェックのミニスカートを履いた水田若菜が来店してきた。
「スイ、遅い!」と、大きな声を上げたちはるの声が、驚きの声に変わった。
「ぱっつん!」
ちはるの声に、誰もが目を見開いていた。
若菜の後ろには、若菜より背が高く薄茶色のタイトスカートを履いた、水田菓子メーカーの女性秘書北神亮がいた。
「ご無沙汰しています」
亮は頭を下げた。
そんな亮に、馬場が言った。
「お帰り」
「馬場さん」
流花は、若菜と亮にカウンター席に座るよう勧めた。
「北神さん、お帰りなさい。さぁどうぞ」
緑の横に亮が座り、亮の横に若菜が座った。
カウンター席に座った亮は、目の前にいるマスターを見つめた。
マスターは、やさしく微笑んだ。
「お帰りなさい」
「マスター……ただいま」
「海外勤務の方は?」
「やっと、終えることができました。業務の引き渡しや、荷物の整理を終えて、やっと帰国をすることができました」
「また、本社で勤務をされるんですか?」
「はい。また、よろしくお願いします」
「こちらこそ。お疲れ様でした」
それまで隣で聞いていた緑がマスターに聞いてきた。
「マスター、この方は?」
「北神亮さん。水田菓子メーカーの秘書で、今まで海外勤務をされていたんです」
「そう言うことか」
「亮さんの隣にいる方は、水田菓子メーカー代表の娘さんです。水田若菜さんです」
マスターが緑に、亮と若菜を紹介すると、三人は軽く頭を下げた。
亮と若菜が、カクテルをオーダーすると、流花が耳につけているイヤホンに、厨房で料理を作っているたきこの声が聞こえた。
「はい。わかりました」
返事をした流花は、厨房に向かった。
流花の後ろ姿を、マスターはそっと見つめていた。
密かに、マスターの視線を追っていた亮が言った。
「マスター。白田さんと、うまくいっているんですね」
嫉妬が混じった声で、亮は言った。
マスターが反応をする前に、少し大袈裟に緑は言った。
「マスターと、ホールの彼女って、デキているんですか!」
「見た通りよ。デキているわよ」
緑の隣に座っているちはるが、面白くない顔をして言った。
……知ってるくせに。役者だな。
うつむいて、カウンターでグラスを拭いていたマスターは、冷たい笑みを浮かべた。
「ホールの彼女って?」
緑の問いに、若菜が答えた。
「白田流花ちゃん。私の友達。『シロちゃん』って、呼んでいます。私は、シロちゃんに『スイ』って、呼ばれています」
「シロにスイか。可愛いね。私も、そう呼ぶわ」
「えっとぉ……」
若菜が、緑のことを聞こうとしたときだった。
ちはるが、鋭く言った。
「彼女は、ただの常連客。ここでは、高飛車女って呼んでいるわ」
「ど〜も〜。高飛車女で〜す」
ノリよく言う緑に、若菜は声を上げて笑った。
その時厨房から、大きなピザを両手で持った流花が出て来た。
「やっぱ、シロちゃんってかっこいいなぁ。それに、可愛いし」
若菜が、憧れの眼差しで言った。
ピザをテーブル席に置いた流花は、テーブル席の客と話をしていた。
「でっかくって、うまそうなピザだなぁ。シロちゃ〜ん!」
馬場の声に、流花が馬場の方へ行った。
「シロちゃん、甘ぁ〜いデザートって、できるかな?量がたっぷりあったら、嬉しいなぁ」
「デザートですか?どんな物が、良いですか?」
「とにかく、甘いやつ。あっ、コーンフレークがあったら、下にどば〜っと敷いてね!」
流花は胸につけているピンマイクで、厨房にいるたきこに聞いた。
「デザート、できます。コーンフレークも、大丈夫です」
「よっしゃぁ!」
嬉しそうに言う馬場に、ちはるが冷たく言った。
「ピザに感動していたのに、何故デザートを頼むのよ。この味覚オンチ」
「スイーツ王子としては、デザートは外せない」
馬場の言葉を聞いた若菜は、声を上げて笑った。
一足早く亮と若菜が帰って行き、周りの客たちもいなくなった。
マスターは、店の外の灯を消した。
厨房で、料理を作っていたたきこは帰って行き、流花は店内の床をモップで掃除を始めた。
カウンター席に、馬場とちはると緑の三人が残り、貸し切り状態となった。
カクテルを飲み、頬が少し赤くなったちはるが小さな声で言った。
「マスター……田中君って、シロと同じ会社で仕事をしているんだって。知ってた?」
マスターは何も言わず、ちはるを見つめていた。
「知らなかったんだ……」
ジョッキのグラスに入っていたチョコパフェを、食べ終えた馬場が言った。
「田中君が、大学の時の友達と言うことは言えても、同じ会社で仕事をしているってことは、シロちゃんさすがに言えないよな」
ちはると馬場の言葉を黙って聞いていたマスターは、静かに言った。
「白田さんとは、年の差があります。白田さんが、同じ世代の男性と一緒にいることは自然なことです。ボクは、何も言えません」
「マスター……人が良すぎます」
ハイボールをゆっくり飲んだ緑は、小さな声で言った。




