タイトル未定2026/08/17 07:59
和みの店を後にしたマスターと緑は、緑が運転をする車で、診療所に戻った。
診療所に戻ると、技師の桑名と鉢合わせをした。
緑は桑名に、声をかけた。
「桑名君、お昼終わった?」
「外で、食ってきました。師長さん達も、外で昼飯?」
「ええ」
言いながら、緑は大きく伸びをした。
マスターは軽く頭を下げると、静かに二人から離れ、診察室に向かった。
桑名は、遠ざかるマスターを見ながら言った。
「先生と、仲が良いですね」
「先生一家とは、昔からの付き合いだからね」
「そうなんですか!」
「幼い頃の先生を、知っているわ」
「先生って、どんな子供だったんですか?」
「おとなしい、子供だったわ」
「あぁ〜なんか想像つく」
突然緑は、思い出し笑いをした。
「えっ、何?何?」
「聞いた話だけど、先生が小学生低学年だった頃」
「うん。うん」
「学校で、女の子からチョコレートをもらってきて、『なんで、チョコレートをくれたんだろう?』って、不思議がっていたんだって」
マスターの思い出話を聞いた桑名は、大笑いをした。
「先生、バレンタインを知らなかったのね。でね……」
「うん、うん」
「小学校の学年が上がることに、チョコレートをもらう数が増え、その頃にはさすがにバレンタインの意味を知っていた先生なんだけど、もらってきたチョコレートに見向きもしなかったんだって」
「もったいねぇ!」
「食卓のテーブルの上に、置きっぱなしにしていたんだって」
「異性に、全く興味がなかったのか。今は、どうなんだろ?彼女いるのかな?」
「それは、直接先生に聞いたら?」
「そうだな」
桑名が頷くと、休憩室から亜美が出て来た。
亜美は緑と桑名に軽く頭を下げ、二人の前を通り過ぎ、診察室に向かった。
そんな亜美を見ながら、緑は意味深につぶやいた。
「彼女、先生に気があるのよね」
「そうなんですか?」
「彼女を見ていれば、わかるわよ。あっ、今のオフレコね」
いたずらっぽく言った緑は、桑名から離れた。
腕組みをした桑名は、緑が言った言葉を思い出していた。
……小学生の頃から、もてまくっていたのか。あの、ビジュアルだ。当然と言ったら、当然だ。
看護師の女子が、目をつけるのも無理ないか。
穏やかだった桑名の目つきが変わり、鋭くなった。
……先生。また、女の子を泣かすんですか?……
桑名は、歩きだした。
診察室に入った亜美は、机の回転椅子に座って、パソコンのキーを打っていたマスターを見つめた。
マスターは、届いた聴診器を首にかけていた。
その姿を見た亜美はマスターに近づき手を伸ばすと、聴診器のゴムに触れた。
「先生、早速使っているんですね!ゴムの色、青色で先生に合っています」
「そ……そうですか……」
マスターは慌てて、亜美から距離をとった。




