9 記憶
ここは……?
窓から差し込む光を見た後、自分の手をフッと見下ろすと、そこには直接腕に縫い付けた手錠があって、足にもそれがあり悲鳴をあげる。
痛い痛い!
なんでこんな所に俺は閉じ込められているんだ?!
ついうめき声をあげると、壁の外からドンッ!と強く叩く音が聞こえた。
そして、続けて聞こえてきたのは、様々な大人の声。
『化物が……っ。黙ってろ!』
『こんな異常者……誰かコレを殺せる者はいないのかしら?』
『殺すこともできないなんて……一体どれほどの異才を持って生まれてきたのか……。
コイツを世に放てば世界が滅びる。このまま死ぬまで閉じ込めておくしかなかろう。』
与えられる言葉は鋭く、そして冷たい。
誰も自分が生きることを許してくれない中、死を待つことしか知らなかった。
そんな時、突然、沢山の人間が俺の身体を乱暴に掴み、沢山の文字が書かれた異様な部屋へと連れて行く。
そして─────……。
『せめて人類が生き残るための礎となれ。生きているだけでいつ爆発するか分からぬ厄災が。これで初めて世の役に立てるな。』
そう冷たく言い放ったのは、自分の父親。
それからは毎日痛みに耐えて耐えて……人は生き残るための方法を見つけ出すことができた。
自分はその第一号。
成功したことに誰も彼もが喜び、1人、また1人と生命の源海へとかえっていく。
そしてそれを詰んだ空の船は────長い旅へと出発したのだ。
「────っはっ……!!」
我に返ると、目からは大量の涙が。
苦しい程の痛みを与えてくる心に耐えられずに、そのままボロボロと涙を溢し続けると、何故か手が突然暖かくなっていくのを感じた。
《この手……凄く暖かくて、気持ちよくて……驚いたんだ。人の手がこんなに暖かいことに。
思念体のまま、この敷地内を見て回っていた時に、君を見つけたんだ。
皆が投げ出す様な仕事を押し付けられ、沢山の人達に罵倒されて……それでもそんな人生の中で必死に生きる君に、『何か』を初めて感じた。
だから、君が磨き上げている部品に思念を乗せて、触ってもらって沢山の『ありがとう』と『頑張れ』を貰った。
そうしたら気づいたんだよ。これが『感情』なのかって。
確かに以前の僕は人ではなかった。だって、何を思い出しても感情がなかったから。》
「そ……れは、周りのせいだ。子供に……なんて酷いことを……。最低だ。」
さっき見えた映像は、きっと神経系を繋いだからこそ見えた、声の主の過去。
途切れ途切れになっていることから、記憶の劣化が見えたが……それでも、十分なほど酷い記憶だ。
多分この声の主は、生まれつき異様なまでの強い力を持っていただけ。
それなのに恐怖から、知識を与えず、感情を持つことを許さず、ただ死ぬのを待つだけの日々を与えた。
誰も彼もに死を望まれ、たった1人で暮らす日々は地獄だ。
そして最後は研究材料として使われ、その後は1人、自我を保ったまま気が遠くなる程の時間宇宙を漂い続けてきた……そんなの俺だって狂ってしまう。
俺がそのままどうしようもない悲しみに苦しんでいるというのに、伝わってくる声の主の感情は『嬉しい』に近い感情で……それがまた悲しくて胸を抑えていると、赤く染まっていた光の壁から血が流れ落ちて視界はクリアーになった。
ハッとして前方を見つめると、大きく口を開いた状態のハイラビッシュが。
────ガキィィィッ!!!
そしてそのままその口で光の壁に食らいつき、ガジガジと齧り始めたのだ!
真っ青になって固まっている俺とは逆に、声の主はまた馬鹿にした様に鼻を鳴らす。
《わぁお。今度は結界ごと食うつもりらしいね!元々はどんな人種だったのかは知らないけど、僕を生まれてからずっと閉じ込めていた世界の住人なんてどうでもいいや。
ねぇねぇ、二コ。これから僕とずっと一緒にいてね。ずっと、ず〜っとだよ!
沢山見て、触って、話しかけて。色々なことを教えてよ。
沢山の知らないモノ、全部全部頂戴。》
酷く無邪気に聞こえる声は、さっきの過去の映像を見た今、凄く悲しいモノだと思った。
俺は大したことなんてしていない。
ただ一生懸命自分の仕事をしていただけだ。
でも、それでも嬉しいと感じるほど……コイツは誰にも何も貰ったことがなかったのだ。
俺は自分の親に撫でられた記憶を思い出し、何もない宙に手を伸ばすと……そのまま空気を撫でる様に撫でてやった。
すると、なんとなく暖かくなるような感覚がして、声の主が喜んでいる様な感覚が身体に広がる。
「……俺さ、なんの特技もないただのオッサンなわけ。
外見は普通、兵士としても最下層だし、不器用だし力も一般男性くらいのモノしかないし、金もない。
正直、俺がいてもいなくても、誰も困らないだろうし、世界は何1つ変わることなく動き続けると思う。」
《?そうなの?》
俺が言いたいことが分からなかったのか、声の主は不思議そうな様子で答えたが、大きく頷いて肯定を示した。
「そうなんだよ。だからさ、今、ちょっとだけ嬉しいんだ。君が望んでくれたこと。
誰かに必要とされることは、自分の居場所がココにあるって教えてくれることだから。」
自分を一番必要としてくれていた両親が死んで随分と経って────1番最初に思い知ったのは、そのことだった。
自分を必要としてくれるということは、ココに自分の居場所を与えてもらえるってこと。
それがあることの幸せは、失って初めて気づいた。
俺は自分の寂しさを思い出し、ハイタッチするように手の平を見せる。
「こんな俺でよければ、これから沢山のことを教えてやるから任せておけ。
こんな世だが、それでも沢山の楽しいことがあるからさ、1つ1つ経験していこう。一緒に。」
《!────うん!》
開いた手の平に、なんとなく軽く手を合わせる様な感覚がしたので笑うと、目の前で齧りついていたハイラビッシュが、諦めたのか離れたのが見えた。
そして、《チィィィィィッ!!!》と威嚇音にも似た大きな舌打ちをした後は、そのまま空へ。
どうやら他の巨神達を捕食しにいったらしい。
「────あっ!このままじゃ全員食われちまう!どうしたら……っ。」
《ねぇねぇ、最初は何をしてくれるの?このままお喋りするのも楽しいね。》
とってもご機嫌そうな声がしたが、とりあえずは人の命が掛かっているため、そちらが優先だ。
「スマン!ちょっと待っててくれ!とりあえず、助けないと!」
俺が焦って上の方を指すと、声の主は苛立ちを隠せない様子を見せた。
《誰が死のうが構わないけど……アレのせいで遊べないのはムカつくな。
じゃあ、アレをさっさと倒しちゃおう。行こう、二コ。》
「────へっ?行こうって……?」
ハテナマークを浮かべた俺を置き去りに、突然の浮遊感を感じて、あっ!という暇もなく、視界は満点の星空へと移る。
ポカン……としながら下を見ると……なんと落ちたら確実に即死!と断言できる高さに自分が飛んでいることに気がつき悲鳴を上げた。
「え……えぇぇぇぇ!!お、お、俺……空飛んでる!!」
《?そりゃ飛べるよ。だってこの巨神って飛べる様に作られてるし……。
それに僕の異才なら、そんなモノがなくても飛べるけど。》
当たり前の様に言う声の主に、なんか自分の方がおかしく感じてきたが、いやいや!と首を横に振る。




