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元落ちこぼれのおっさん下等兵、改め────  作者: バナナ男さん


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2 下等兵<平野 二コ>のお仕事

「次に製造予定の各部品だ。念入りに磨けよ。」


「「「「────はっ!」」」」


クルクルと渦を巻く様な特徴的な髭に、髪はサラサラのボブカットという、中々個性的な髪型をしている四十代くらいの男は、偉そうに命令してきた。


彼は上官である<上村かみむら>曹長。

この場で上官に逆らえば、首をこの場で斬られてもおかしくないため、俺を含めた下等兵達は気をつけの体勢で元気よく返事を返した。

すると素直に返事を返したことに気分をよくしたのか、上村曹長はフンッとご機嫌で笑いながら部屋を出ていく。

その後は山積みにされている部品を各自回収し、すぐにそのまま部品の磨き上げに入った。


ここは、突如現れた人類の敵である全身がゴミの集合体の様な化物、通称【ハイラビッシュ】と呼ばれている化物相手と戦うための組織【総令国軍】の日本支部だ。


人類はこのゴミの孤島にて、中心部のクレーター型の泉を中心とした都市を築いて暮らしている。

そして、泉に一番近い場所にあるのが、それぞれの国の【総令国軍】の本部である。


【総令国軍】が製造、管理する人類の最強兵器、それが【機動巨神モビル・タイタン】で、ここでは『巨神』と呼ぶことが多い。


唯一ハイラビッシュと戦える巨神は、まさに選ばれた者が操縦できる、人類を救う神様!

ここに志願して入る者達は全員、それに選ばれるために集まるわけだ。


俺は、手鏡の様な形をした部品を必死に磨きながら、そこに反射して映る自分の情けない顔を見て、思わずため息をついた。


【下士兵所属】(下等兵)<平野 二コ>(35歳)


下等兵、これが俺の現在の階級で、ちなみにそれは、組織内の階級の中では一番下に位置している。


階級は全部で6つの階級エリアに分かれていて、一番上の階級エリアが【将官エリア】。

これは軍の最高幹部達が所属している階級エリアで、その中で偉い階級から順番に<元帥>、<大将>、<中将>、<少将>。


次の階級エリアが【佐官エリア】。

これは中核となる部隊の指揮官……いわゆるエリート指揮官を指し、その中の階級から順番に<大佐>、<中佐>、<少佐>である。


その下に位置する階級エリアが【尉官エリア】。

これは各小隊や中隊の、実際の現場でリーダーを任される比較的若い士官であり、上から順に<大尉>、<中尉>、<少佐>だ。


そして、そんな尉官エリアの下で働くのが【下士官エリア】と呼ばれる階級であり、一般兵より少し出世した者達の階級だ。

これが<曹長>で、さっき偉そうに命令してきた上村さんも、この階級に属している。


ここでやっと俺の所属している階級エリアが出てくるのだが、それが【下士兵エリア】。

このエリアは、軍の中では一番下の階級エリアで、かろうじて戦える同調値を持っている者達が<上等兵>、そして同調値が低くて非戦闘員と判断された者には<下等兵>という階級が与えられるのだ。


俺、二コは、同調値が一定以下の非戦闘員で、下等兵のまま35歳になってしまった悲しきロートル兵であった。


「14歳で入隊してからずっと下等兵……。俺と同期で下等兵になった奴らなんて、全員とっくの昔に辞めちまったもんな~。

『こんな恥ずかしい階級なら、畑を耕した方がマジだ!』ってな。」


この軍での階級を決めるモノは、<同調値>。

巨神と同調できる値が、最も重視されるのだ。


それは訓練により多少上下するが、高いヤツは最初の入隊時から凄い値を叩き出すことが多いため、殆どが先天的なモノであるとも言われている。

だから最初に下等兵になれば、どんなに努力しても、行けてその上の階級の曹長止まりなヤツしかいないとも……。


「もう20年以上、全く値が変わらず……か。悲しすぎる!

っつーか、同調値が高い上層部って、総じて美男美女というか……そういうカリスマ性が高そうなヤツらが多い気がするんだよな~。

巨神様は、面食いなんじゃ……?」


情けない顔で写っている自分を見て、とりあえず……と笑顔を作ってみたが、これでイケメンになんてなるはずもないことは分かっていた。


日本人特有の黒髪に黒目。

更にあっさりとした醤油系の顔に、平均身長、平均体重と……その他大勢に3・2・1で紛れることができて、一度見失えばもう見つからない。

そんな存在感の薄さからは、勿論花も無ければ、カリスマ性の欠片も感じられない。


俺が落ちこぼれなのは、カリスマ性が……カリスマ性が足りなかったんだ!


言い訳の様につぶやきながら、必死に部品を磨いていく。

周りを見れば、上官である上村曹長がいなくなったからか。同じ下等兵達は非常にダレてお喋りに夢中の様だ。

ペラペラと、手より口が多く動いていた。


「ハァ~……毎日毎日、こんな部品磨きなんて嫌になっちまうよな~。俺は新型人類になりたくて志願したっつーのによぉ。

この間の同調値測定も駄目だったから、次駄目だったら諦めて退軍するよ。実家の商売を継いだ方が、稼げるからな。」


「俺も次でラストかな。ぶっちゃけ、下等兵を諦めさせるために部品磨きや他の汚れ仕事させてるんだと思うよ。

やってられねぇもん。────うっ!くせぇ~……っ。」


同じ下等兵の仲間の1人は、部品を磨きながら思い切り顔を背ける。

確かに俺はもう慣れたものだが、まずはこれが下等兵としての初めての試練だと思い、なんとなく優しい気持ちになった。


巨神製作に使う部品の全ては、一度中央に存在する湖に沈めてから使う。

なんで?と最初は思い、たまたま仲良くなった整備士に聞いた所、なんと泉に浸すことで、同調というモノが可能になるかららしい。


その理由は上層部の人間でも分からないそうで、つまりよく分からない。

そんなモノを人類は使って、種の存続のために戦い続けているということだ。


一体なんでなんだろう……?


その答えは下等兵如きに出るわけもないが、まぁ、1つ確実に分かっていることは────その泉に浸った部品が物凄く臭いことだ!


人間の体臭?というか、胃液とか血の匂いも混じってる様な……とにかく強烈な匂いで、匂いに敏感なヤツは一日で退軍してしまったヤツらもいるくらい。

だから皆、サッサッと液体だけ拭いて終わりにするのだが、それでも匂いは残ってしまい、風呂に入るまでは拷問の様な匂い地獄を味わわなければならない。

これが毎日であるため、大抵の奴らが1~2年以内には辞めてしまうというわけだ。


「俺なんて20年以上いるけどな。」


密かにエッヘン!と胸を張ったが、愚痴を溢していた奴らの中で、俺の存在に気づいた奴らが、明らかに見下している様な目で見てきた。


「……ほら、あのオッサンだよ。ここの最年長。

よく毎日毎日こんなクソみたいな仕事できるよな。こんなプライドの欠片もない仕事。」


「20年以上も下等兵なら、才能なんてないって分かってるはずなのにな。必死過ぎだろうww

冴えねぇ見た目してるし、きっと他に仕事がねぇんだろうよ。

俺だったら恥ずかしくて、外でノーホームになった方がマシだわww」


そこでそいつらは、ドッ!と笑いだし、周りでその話が聞こえた奴らもクスクスと笑い始める。

しかし、そんなことは言われ慣れているため、気にすることはしない。

それに……プライドの欠片もない仕事だと思っていないからこそ、その悪口は心に響かなかった。


この部品達は、憧れの巨神を作る大事な大事な一部達。

それを綺麗に磨くことは、誇り在る仕事だと俺は思っている。


『ありがとう。』

『頑張れ。』

『どうか新型人類様を守ってやってくれ。』


そう心を込めて拭いて磨いて……そしてそんな俺が磨いた部品で完成した新しい巨神、それを拝めるだけで感動に涙するくらいだ。


「頑張れ~頑張れ~。ありがとうありがとう……。」


本日も悪口にはお耳シャットダウンして、一心不乱に部品を磨き上げていったのだが、他の下等兵達は適当に仕事を終わらせた後は、1人……また1人といなくなり、いつも通りまだ磨いている俺だけが残った。


「おっさん、後はよろしくな~☆」


「俺達は忙しいんでぇ~!ちゃんと全部やっておけよ!分かったな!」


そんな捨て台詞もいつものこと。

寧ろやっと静かになったことにホッとしながら、俺は他の下等兵達が適当に拭いただけで放り出していった部品も、全て綺麗に磨き始めた。


別に奴らのためにしているわけじゃない。

自分の巨神に対するリスペクトの問題なのだ。


巨神は、俺にとって憧れた父と共に戦ってくれた最高のバディだ。

俺の父親はハイラビッシュと戦うために軍に志願し、下等兵から曹長まで上り詰めた人であった。

まぁ、曹長なんて大した階級ではなかったが、それでも巨神に乗って戦いに行く父はカッコ良かったと今でも思う。


結局は、俺が幼い頃に土地の一部を奪還する作戦にて戦死してしまったが、それでも父の勇士は憧れそのものであったため、俺は同じ道を選んだのだ。


「まぁ、全然才能なかったけど!でも、それでもできることは全力でしよう!

一生下等兵でも、俺はずっとこうして巨神のために働くぞ!どんなに辛く当たられたって、悪口を言われたってな!」


それから何時間も部品を磨き続け、最後の部品を完璧に磨き終えた後、俺は腰に手を当ててワハハ~!と大声で笑った。


パイロットになれないなら、パイロットを支える一部でありたい!

父さんみたいに必死で戦ってくれるパイロットのため、俺は磨いて磨いて磨きまくるぞ~!


全ての仕事を終えると、もう既に終了時間を四時間もオーバーしていたため、慌てて俺は部屋から出た。


だから、気が付かなかったのだ。


俺が磨き上げた部品全てに、突然人間の目の様なモノが現れ、出ていく俺をジッ……と見つめていたことに。


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