表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/23

第9話 12円は、だいたい油断の値段


朝は、思ったより早く来た。


鳥の声が、近い。

霧は薄く、空気が少し冷たい。


フィアネは、目を覚ましてすぐに画面を出した。


《所持金》

726,532 円


(……よし……( ˘ω˘ ))


数字は、変わらない。

昨日は稼がなかった。

だから、減ってもいない。


でも――

それだけじゃない。


(……今日は……

 “ちょっとだけ”……)


フィアネは、静かに起き上がった。

ランドセルを背負う。


エレハンドロとヨハムは、

すでに外にいる。


「……おはようございます」


「おはようございます」


二人とも、声は低い。


「……今日は……

 少しだけ……」


言いかけて、

フィアネは言葉を選び直す。


「……12円くらい、

 試したいです」


ヨハムが、眉をわずかに動かした。


「……対象は?」


フィアネは、画面を操作する。


《検索:最安魔物素材》


――ヒュン。


《バブルスライム亜種・残渣》

・売却価格:12 円


(……あった……!(`・ω・´))


「……あれなら……

 危なくないし……」


エレハンドロは、少し考えてから言った。


「……我々は、

 距離を取ります」


「はい!」


フィアネは、小さく頷いた。


バブルスライムは、

文字通り、ぷにぷにしていた。


攻撃性はほぼない。

踏むと、逃げる。


(……可愛い……)

(……でも……売る……)


フィアネは、少しだけ罪悪感を感じながら、

慎重に近づく。


――ぷしゅ。


倒した。


残ったのは、

透明な液体。


《売却可能》


(……12円……!)


指が、少し震える。


(……初めての……

 “自分だけの”……)


ポチ。


《売却完了》

+12 円


《所持金》

726,544 円


「……増えた……!」


思わず声が出た。


(……たった……12円……)

(……なのに……

 めっちゃ嬉しい……(;´∀`))


その瞬間――


――ぬる。


足元が、滑った。


「……あ」


転びはしなかった。

だが、

透明な液体が、

靴に、べっとり。


(……あ……)

(……これ……)


エレハンドロが、すぐに来る。


「……問題は?」


フィアネは、靴を見下ろす。


「……匂いが……」


遅れて、

甘ったるい臭いが立ち上る。


ヨハムが、即座に判断した。


「……誘引臭です」


「小型魔物が、

 寄ります」


(……え……)

(……12円の代償……重……(;´Д`))


その言葉通り、

森の奥が、ざわつく。


――がさ。


小さな影。


さらに、

もう一つ。


エレハンドロが、低く言った。


「……想定外です」


フィアネは、ぎゅっとランドセルを抱く。


(……やっちゃった……)


だが、

動く前に――


空気が、変わった。


「……それ以上、

 近づくな」


低い声。


イルビアスだった。


いつの間にか、

少し高い岩の上に立っている。


視線は、

森の奥。


影が、止まる。


空気が、張り付く。


イルビアスは、

軽く手を上げただけだった。


それだけで――

魔物たちは、引いた。


逃げるように、

森へ戻っていく。


静寂。


フィアネは、

しばらく呆然としてから、

深く頭を下げた。


「……すみません……」


「……12円で、

 呼び寄せました……」


イルビアスは、ため息をついた。


「……値段が安いと、

 影響も安いとは限らない」


正論だった。


フィアネは、しょんぼりする。


(……失敗……(;´ω`))


イルビアスは、少し考えてから言った。


「……靴を脱げ」


「え」


「……その匂い、

 今日一日は消えない」


フィアネは、慌てて靴を脱ぐ。


「……あ……

 予備……」


ランドセルを探る。


――ヒュン。


《靴(安価)》

980 円


(……高……!)


一瞬、躊躇したが、

フィアネはポチった。


《購入完了》


靴が現れる。


「……980円……」


小さく呟く。


イルビアスは、短く言った。


「……12円の実験だ」


「……安い」


フィアネは、苦笑した。


「……ですね……」


新しい靴を履く。


足元が、軽い。


(……でも……)


+12 円

-980 円


(……赤字……)


フィアネは、空を見上げた。


(……それでも……)


値段だけじゃ、

測れないものがある。


今日は、

それを知るための12円だった。


エレハンドロが、静かに言った。


「……学びは、

 高価です」


ヨハムが、続ける。


「……ですが、

 無駄ではありません」


フィアネは、少し笑った。


「……次は……

 もう少し高く……

 安全に……( ˘ω˘ )」


森は、静かだ。


山は、

今日も、値段をつけずにそこにある。



次は

第10話:街道/初めて“人の店”に近づく回(コロッケ前夜)

→ フィアネの「値段感覚」が一段深くなる回



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ